『とある朝の』の続きです




昼間に人がいて騒がしいところ程静かになると恐怖感を煽るとはよくいったものだ。私は今教室で一人委員会の報告書を書いていた。
本来ならこれは委員長である真田君の仕事だけど、今日は部活の用で東京のなんとか学園まで行かなければならないらしい。そこで副委員長をしている私に白羽の矢が立った。柳生君が手伝うと言ってくれたけど部活の練習があるだろうから丁重にお断りした。

「こんな感じでいいかな」

初めて書くから勝手がわからず、真田君の書いたものを何度も読み返して書いていたから随分と時間がかかってしまった。
現在午後5時30分。外はまだ明るいから帰るのに特に問題はない。私はゆっくり荷物を纏めて外から聞こえる部活動の掛け声に耳を澄ませていた。
野球部やサッカー部の声がグラウンド側から聞こえるのに対し、テニスコートのある中庭側からはいつもの真田君の声が聞こえる代わりに幸村君の声が微かに聞こえてくる。

「名前先輩いるッスか?!」

大きな音を立てて切原君が教室のドアを開ける。なんと切原君は私を探していた様で息を切らせてやって来た。
来てください!って凄い形相で言うものだから何かあったのかと聞けば切原君は丸井先輩がっ…とだけ言って後は何も言わなかった。結局何なんだろ。

「わかった。テニスコートに行けばいいの?行ってもいいの?」
「副部長いないんで他の先輩達も賛成してるし大丈夫ッスよ!」

切原君はさっきとはうって変わって可愛らしい笑顔で笑った。きっと本人に言えば起こるだろうから言わないけれど。
切原君に連れられテニスコートに行くと凄いオーラを纏った丸井君がジャッカル君と打ち合いしていた。ジャッカル君の顔が蒼白だけど誰も止めないのは何でだ。

「先輩!!名前先輩連れて来ました!」
「あぁ。名字だな。すまないが今日はここで丸井を見ていてくれないか?」

ドキっと胸がなった。柳君に話しかけられてとかというわけじゃない。ただ柳君に私が丸井君のことを好きな事が知られたかと思ってびっくりしただけだ。柳君なら知ってそうなところが怖いからあえて聞かないでおいた。

「丸井君?「どうして?」」
「とお前は言う」

え…?うん、だからどうしたの柳君。柳君がどうだみたいな目で見てくるんだけど…。どうって言われてもあのタイミングでそういうなんて私にもわかるよ。ごめんなさい。

「朝から丸井の機嫌が悪くてな。見ているだけでいい。協力してくれないか?」
「…良いですよ。じゃあ外の邪魔にならないところで見てますね」

丸井君を見れるのならやりましょう。ミーハーみたいな気がするけれど、この際気にしないでおこうと思う。
流石強豪と言われるだけあってテニス部の練習は凄かった。素人の私の目から見ても分かるくらい印象のあるテニスをしていた。ラリーで切原君はスピードのあるテニスで打ち合ってる時間が一番短い。それに対してジャッカル君は持久力の有無が問われるような長いラリー。
丸井君は普通にテニスをしていて噂で聞いた妙技とやらの練習はしないらしい。練習しなくてもできるから妙技なのだろうか?何か違う気がする。

「名前せんぱーい!!ちゃんと見ててくださいねー!!」

切原君が顔を青くさせながら大きな声で私を呼ぶ。ちゃんと見ろとは丸井君の練習のことだろう。私は切原君に向けていた視線を丸井君に戻すと丸井君と目が合った。

「名字?!何で、いんだよぃ!?」
「えーっと…」

これはなんて返したらいいんだろう。丸井君の練習を見にって言ったら只のミーハーと同じだし好きだって丸わかりだから言えないし。どうしたものかと悩んでいると何処から出てきたのか柳君が丸井君に嘘を交えながら大まかに説明してくれた。大半が捏造だったとか言えない。

「マジで?練習見んの?」
「う、うん。…嫌なら私帰るよ?」
「嫌じゃねぇから!…見てて、くれ」

顔を真っ赤にさせながら言う丸井君。つられて私の顔にも熱が集まる。とにかく何か返さないとと思い、見てるねとだけ言った。素っ気なかったかなって思ったけど今の私には更に言葉を話す余裕はなかった。

それからの丸井君は凄かった。妙技を使ってジャッカル君と打ち合いしてたり、仁王くんと柳生君とダブルスパートナーを入れ替えて練習してた時も調子良さそうにプレーしていた。

「調子良さそうだね!あの、綱渡りだっけ?凄かった!」
「うっしゃっ。俺の妙技、天才的だろぃ?」
「ふふっ、そうだね」

休憩時間に会話したりして楽しかった。それから約一時間、現在午後6時40分。夏前とはいえこの時間になると辺りも薄暗くなってくる。親は共働きで遅くまで帰ってこない。兄弟もいない私は帰りが極端に遅くならない限りは怒られることはない。
練習も終わったみたいだから帰ろうかと思っていると後ろから声を掛けられた。

「名字?こんな時間までどうしたのだ?」
「見学だよ。真田君はなんとか学園からの帰り?」

真田君は氷帝学園だともう一度学校名を教えてくれたけど多分明日には忘れてると思う。
真田君は暗いから送ると言ってくれたけどそれは真田君に悪いと断ろうとした時丸井君がやって来た。

「名字!!一緒に帰ろ…って真田!!」
「む?丸井、名字と帰るのか?」
「お、おう(もしかして二人にしてくれる、とか?)」

俺は朝の事もあって真田が珍しく気を利かせてくれると思っていた。だけどそんな俺の期待を粉々に打ち砕く言葉を真田は言った。

「ならば俺も一緒に帰るとするか、丁度送っていくと言っていたところだったしな」

いや、待て。どうしてそうなる。朝もだけど真田はフラグクラッシャーの素質があると思った。
真田曰く、今日の委員会報告書の作成を名字に頼み、見学していたにしろ残してしましたことに変わりはないから送っていくとのこと。その理論で行くと見学し、残ることになった原因は俺にあるから俺が送っていくのが道理じゃないかと聞けば真田は黙った。

「名前先輩?!まだ居たんですか!?」
「切原君。まぁ、ね。今帰り?」
「そうっすけど…丸井先輩と帰らないんすか?」

切原君の問いに私は苦笑いするしかなかった。勿論帰れるのなら丸井君と帰りたい。けど二人でとかそういうのはハードルが高いと思う。それにわざわざ送るといってくれている真田君の好意を無下にもできない。

「どうしよっか…」

とある放課後の

「じゃあ皆で帰ると言うのはどうだ?」

黙っていた真田が着替えてやって来た他のレギュラーを見てそう言い出した。いや、待て。どうしてそうなる。そんで柳生、話に乗ってんじゃねぇよ。なんだお前ら、マジ空気読め。
結局、二人の勢いに名字が押され全員で帰ることになった。
帰り道隣で、とか思ったけど左は赤也、右は何故か仁王が並んで歩いていて俺の入る隙はなかった。

何で俺が最初に誘おうと思ってたのにこんなことになってんだよぃ!!!
仁王なんかたまにこっちを見てニヤついた顔をする。わざとだ、あいつはわざとだ。

俺は腹いせに後ろから真田を睨んで下校した。

どれもこれも元はこのおっさんのせいだからな!!!











「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -