「赤也!!なんだそのだらしない服装は!ネクタイくらい締めろ!」
「仁王君!!貴方って人は何度言えばきちんと制服を着るんですかっ!!」
今日は風紀委員による服装検査の日。私も風紀委員として朝早くから登校して仕事をしていた。今日ばかりは練習の厳しいテニス部も朝練がないらしい。委員長の真田君も同じテニス部の柳生君も校門で登校して来る生徒の服装チェックをしていたが、例のごとくテニス部の仲間に気をとられてそれどころではない。他の生徒は鬼の居ぬ間にと駆け足で下駄箱に駆け込んでいく。
「ラッキー!赤也怒られってから名字じゃん」
「あ…丸井君」
「はよ。んじゃあ、今日もチェックシクヨロ」
「はいはい。…特に服装は問題無いね。ただお菓子はちょっとねー…」
私は苦笑いをしながら丸井君が食べているお菓子を指さす。それに対して丸井君は登校中に女子がくれたんだと笑って言った。
胸が締め付けられるように痛い。
ズンっと鉛がのし掛かったみたいに私の体が一気に重くなった気がした。好きな人が言うそういうことは聞いているだけで辛い。彼女でもなんでもない。それどこか友達ですらない私がこんな感情を持っているなんて烏滸がましいにも程がある。
「…?名字?」
「!…ごめん!ぼーっとしてた」
「寝不足かー?昨日何時に寝たんだよ?」
「普通に11時だよ。というか早く行かないでいいの?真田君戻ってくるよ」
ちらりと真田君が切原君におこっている所を見るとそろそろ終わりそうな雰囲気だ。真田君がいない間にチェックできたのだから、ここにいる用はもう無いはずの丸井君に言えば、あーとかうーとかうねるばかりできちんと答えてくれなかった。
「だから、その、よ…(男を見せろ俺!!)」
ごにょごにょ話す声は聞き取り図らくてなに?と返すと丸井君は真っ直ぐ私と目を合わせてきた。
「…お、俺お前と話してたいからさ。だから」
「赤也あぁーーー!!!!!」
…タイミングの悪いことに丸井君の俺までしか聞き取れなかった。
「ごめん、真田君の声で聞こえなかった。なんだった?」
そういうと丸井君は肩を震わせ下を向いてしまった。どうしたんだろうと疑問に思って顔を覗き込もうとした時だった。いきなり丸井君が顔を上げて真田君の方を向いた。
「真田ああぁぁぁ!!!」
未だ説教してる真田君の元に凄いスピードで走っていった丸井君。身長差のある真田君の胸ぐらを掴んで何か言いながらガクガクと揺さぶっている。
その時の丸井君の顔はとてつもなく怖かった。
「おはよ。ブン太の奴どうかしたのか?」
「おはよう、ジャッカル君。う〜ん?真田君に声被せられて怒ってる感じ」
「(あぁ、何か言おうとしたんだな)…そうか」
ジャッカル君もいつも通り私のところで服装チェックを受ける。丸井君同様大きな着崩しは見られないからセーフにしておいた。ジャッカル君は丸井君を遠い目で見てて丸井君が怒ってる理由をわかってるみたいだった。さすがダブルス組んでるだけはあるね!
「名字…」
「な、なにさ!」
そうじゃないと言いたげなジャッカル君の顔が妙にイラついたので、手に持っていたバインダーで軽く叩いた。
とある朝の
「てめぇのせいで言えなかったじゃねぇかよぃ!!」
今日こそは名字と会話しようと思っていたのにこのおっさんのせいで出来なかったと思うと腹が立って仕方がない。
「ま、丸井!そのよくわからんが邪魔をしたのは…悪かった」
「はぁ?わかってねぇのに謝られてもしゃーねぇよ!!」
「丸井先輩、落ちついてください!名前先輩ッスよね!ジャッカル先輩と話してるッスよ!いいんスか?」
赤也はただ必死だったんだと後で仁王に教えられてわかったけど、こんときの俺からしたらただ火に油を注がれただけだった。
「な、んでお前が名前呼んでんだよぃ!!つか、は?ジャッカル…ってああぁあ!!!」
赤也が名字の名前を呼んでることも腹が立ったけどそれどころではない。先程まで自分がいたところをみると名字とジャッカルが仲良さそうに話している。
どいつもこいつも俺の邪魔してんじゃねぇよ!!!
俺が名前と仲良くなるのはいつになるのか、すごく気が遠くなった。