たとえば、彼女が起こす全てのこと
「赤也」

凛とした声がテニスコートに響いた。響いたと言っても声を出した人物は特別声を張ったわけでもなく、ただ普通に声を出しただけだった。
それでもコートの周りで騒いでいる女子の声に掻き消されることなく俺達の耳に届いた。

「!?茜!?」

名前を呼ばれた赤也が今度は相手の名前を呼び、駆け寄る。そこで俺は初めて彼女を認識した。赤也と同じ黒い、赤也ほどでは無いけれど癖のある髪にこの学校のものではない制服を身に纏った少女。黒と白の長袖のセーラー服が彼女に自然と馴染んでいて、俺は目が離せなかった。

「精市?」
「…蓮二、彼女は誰だい?」
「赤也には姉の他に双子の妹がいると聞いたことがある」

確かに彼女と赤也、言われてみればそっくりだ。黒いくせのある髪に同じ碧の瞳。
赤也は彼女からお弁当と思われるものを受け取っていた。そういえば弁当を忘れたと言っていたっけ。

「ぶちょー!!」

彼女と話していた赤也が彼女の手を引いて俺の下へと来た。今は休憩中だから、特に咎めることはしない。けれど、赤也の妹とはいえ『女子』少し身構えてしまうのは仕方がないだろう。

「部長!俺の妹の茜ッス!」
「ちょっと、赤也。離してよ」

ニコニコと笑う赤也とは対照的に冷ややかな目で俺達を見る彼女。
一体、今彼女は何を思っているのか。少し興味が湧いてきた。
感情の読みづらい表情で、まっすぐ俺達を見る赤也と同じ目。彼女は俺達全員を見たあと、未だニコニコしている赤也に目を向けて小さく溜め息をついた。

「切原茜です。赤也がお世話になってます」

背筋をぴんと伸ばして、赤也を最初に呼んだ時のような綺麗なアルトの声が聞こえたかと思うと彼女はお辞儀をしていた。
礼儀のなっている子だね。

「部長の幸村です」
「…貴方が幸村さんですか」

彼女は何か納得したような顔で俺を見てきた。そして蓮二、丸井、仁王、柳生、ジャッカル、そして最後に真田を見て、俺の時よりもさらに納得したような表情で「貴方が真田さんですね」と言った。
彼女は俺達を知っている…?

「お前、俺らのこと知ってんのかよぃ」
「…丸井さん、ですよね。知っていますよ。私は女子組ですので、イケメンと称されている貴方がたの話は常々耳にしています」

そこで一度言葉を切り、続けて赤也からも話を聞くと彼女は言った。
赤也が話すのは普通だと思うけれど、他校にも俺達は知られているのかと思わず溜め息をついた。

「女子組とは何だ?」

さっきの会話で彼女が言った『女子組』という俺達には馴染みのない言葉。知識欲は人一倍の蓮二が代表して問う。

「女子だけのクラスですよ。それ以外は普通のクラスです」

淡々と答える彼女の姿にこの落ち着きを少し赤也も見習ってほしいと思った。
じっと彼女を観察していたら彼女がこちらを向いた。俺はとっさに愛想笑いを顔に貼り付ける。
すると彼女は微かに眉間に皺寄せた…気がした。ただ俺が『女子』に対して疑心暗鬼になっているだけかもしくは彼女が本当に眉間に皺を寄せたのかは、今の無表情な彼女からは読み取れない。

「…長居しても練習のお邪魔でしょうから、私帰りますね」

驚いた。俺はてっきりこのまま赤也の妹という立場を利用して応援するとでも言うんだろうと思っていた。しかし彼女は俺の考えを否定するかのように帰ると言った。

「え、茜帰んの?!見て行けよ!」
「赤也…。私、作品仕上げないといけないから…。ごめん」

あくまで無表情で言う彼女、しかしその言葉の端々から申し訳ないという感情を読み取ることが出来た。
彼女は表情で表すのが下手なのか…。
とここまで考えて我に返った。いくら興味があるからといって(彼女は知りもしないが)他人に色々思われるのは嫌だろう。

「そっか…。また出来たら見せてくれよ!茜の絵、俺好きだから」
「うん、わかった。…それじゃあ、失礼します」

丁寧に頭を下げて校門の方に歩いて行く彼女。

絵…彼女も絵を描くんだ。

親近感を覚え、俺はもう一度彼女にあってみたいと思った。話が合いそうな気がするよ。

たとえば、彼女が起こすすべてのこと


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