mitei 残夜 | ナノ


▼ 7

青天の霹靂ってこういうことだろうか。

「いらっしゃい。いや、おかえり?かな」

「お、お邪魔します…」

連行…いや、案内されてやって来たのは僕の家から徒歩数分の、とあるマンションの一室だった。
僕が知らなかっただけでそうくんはこんなにも近くにずっと居たんだ。何で今まで知らなかったんだろう。

玄関で立ち竦む僕を彼は部屋までそっとエスコートして、ソファなんてものは無いからとシングルベッドに座らせた。言われるままに腰を下ろすと、キシッと僅かに沈み込む音がする。

どうやら必要最低限の家具しかないらしい。殺風景な部屋の中には、生活感があまり感じられない。
大きなクローゼットはあるが、あの中にたくさん服とか収納されてるのかな。だから部屋の中はこんなにもあっさりしているのだろうか。

というか一人暮らし、なんだな。
それすらも知らなかったなんてやっぱり僕は恋人失格なのかも知れない。

チクチクと痛みが増す胸を無視して部屋の中を眺め回していると、ティーカップを二つ持った彼がドアを開けて帰ってきた。

一人暮らしなのにティーカップは二つあるんだ、なんておかしなことが気に掛かってしまう。予備用かな。埃も落ちていない床などを見るに割と几帳面な性格なのかも知れない。

「はい」

「ありがと」

そうくんは紅茶の入ったカップを一つ僕に手渡すと、自分もシングルベッドに座った。割と頑丈な作りのようで、僕らが二人座っても思った程軋まない。

貰った紅茶を一口、口に含むとほんのりとレモンの香りがして身体中に染みていくようだった。

「美味しい」

「良かった。好きな味だもんな」

「え?」

何で知ってるの。紅茶の話なんてそうくんとした覚えは…。
疑問に思い左を向く。するとそこには小さな疑問なんて吹き飛ぶ程の光景があって、僕は小さく息を飲んだ。

思わず溢れ出た感想を隣で受け取っていた彼はいつもの無表情から一転、少しだけ眉を下げて安堵したように目を細めて微笑んでいる…ように見えたのだ。

それはあの日、僕以外に向けられたあの笑みと似ているようで、けれどそれよりももっと蕩ける様な甘さを含んでいるようで…。
面と向かってそんな顔をされると自然に頬に熱が集まってしまう。

悟られないように慌てて顔を正面に戻すも、まだ横顔に視線を感じる。

今日のそうくんは一体どうしてしまったのだろう。別れ話を切り出してこのマンションに連れてこられて…。この部屋に入ってからの彼はどこか妙に甘い雰囲気を醸し出している気がして落ち着かない。

「さて本題だけど」

「あ、はい」

きっとさっきの話の続きだよな…。
唐突に彼が切り出すものだからこちらも思わず敬語になってしまって、また少し恥ずかしい。

「朔はおれといて楽しいって思ってくれてたの」

「うん…」

最近はもう、そればっかりじゃなかったけれど。しかしそんな僕の心境を察するように彼は続けた。
酷く穏やかで、優しい声音だった。

「苦しめたんだね…。ごめんな、おれもまだ迷ってたんだ」

「迷う?」

「本当に朔と…おれなんかが付き合って良いのかって。朔も知ってるだろ?おれって恋人をこんなに不安にさせちゃう最低な奴なんだ。その癖自分の気持ちも抑えられない。朔を傷付けたくないのに結局違う形で傷付けちゃった」

そうくんが沢山喋ってる…。
ってそうじゃなくて、そこじゃなくて。

普段無口な彼が沢山言葉を尽くして自分の気持ちを伝えようとしてくれてる。それもきっと、僕の不安を掻き消そうとしてくれているんだと思うと胸の棘なんて消えてしまった。
ほわほわと、温かい何かが広がっていく心地がする。さっきの紅茶を飲んだ時みたいだ。

でも彼の言葉の真意の全ては理解出来ない。自分の気持ちを抑えられないって、どういうことなんだ?それに、最低な奴だなんて…。

「そうくんは、何でそんなに自分に否定的なの?」

「そりゃあ朔に嫌われるのが怖いからだよ」

「うそ」

「ほんと」

怖い?僕に嫌われるのが?
あの、そうくんが?

「嫌いになんて、なれるはずないよ」

寧ろ嫌いになれたならどれだけ…。
思い返す葛藤の日々。しかしその中でもやはり輝きを失わない光を思い出して、続きの言葉はそっと飲み込んだ。
すると僕の代わりに、今度は不安そうな声音で彼が聞き返してくる。

「本当に?」

「うん」

僕がそう返すと、彼は褒められた幼い子供のようにぱあっと顔を輝かせた。眩しい。

やっぱり今日の彼はどこかおかしい。
いや、もしかしたら今までの彼の方が偽りで、今僕の目の前に居る表情豊かな方が彼の素の姿なのかも知れない。

「良かった。朔がそう言ってくれるなら、全部見せるね。全部話すよ。…おれを見て。ぜんぶ。それでも、好きでいてくれる?」

「蒼…」

「なんてね。結局どれだけ考えたって、きみの心を絶対おれに縛り付けておける言葉なんて無いんだよな」

何かを決意したような凛とした眼差しは真っ直ぐ僕を捕らえてしまった。
緊張からなのか本能が何かを察知したのか、喉がごくりと勝手に上下する。

「もう隠すのはやめるよ」

「隠すって、何を」

「ぜぇんぶ、朔にあげる」

幼い笑顔のまま一層笑みを濃くした彼は、徐にベッドの下から何か大きめの箱を幾つか取り出した。
僕らが座っていたベッドの下にこんなものが入っていたなんて。だから二人分の体重を受けても思った程軋まなかったのかな。

取り出された箱はどれも頑丈そうな、四角い缶の箱だった。次から次へと出てくる箱の一つを選んで開けると、ベッドに座り直した彼がその中身を僕に見せてくる。

まるで公園で綺麗などんぐりを見つけた幼子のような明るさで、愛おしそうに箱の中身を眺めながら。

しかし彼の反応とは裏腹に僕はただただ突き付けられた現実に困惑を隠し切れる訳もなかった。だってこれは…これらは普通ここにあるべきものではないのだから。
僕の家にだってこんなにありはしないものだったから。

「そうくん…?な、何…これ」

「おれの宝箱。というか全て。今は本物がいるけどそれまではこれで賄ってた」

何て?ま、賄うって?何を?

「ちょ………っと待って?え?」

「混乱させてごめんね。でもまだ集めるのはやめらんないな」

いや、いやいやいや…。

宝箱。そう形容された箱の中身を埋め尽くしていたのは、幾つもの箱中を埋め尽していたのは…写真の数々だった。よく見れば、いやよく見なくてもそれが誰かなんてすぐに分かってしまう。

毎朝鏡で見ている顔だ。
平凡で少し情けない、何処にでもいる高校生の。だけど今ここにしか居ない、この僕の…。

「な、なん、何でこんなに…。これ、小学生の時のっ!」

「幼稚園の頃のやつもあるよ。これなんかすっごくカメラ目線で珍しいよね?朔は撮られるの嫌いなのに。あ、こっちのは確か山に遠足行った時のだ。迷子になったんだって?ホンットにドジだなぁ。あとこれはこないだ貰ったやつ。朔が授業中にぼんやりしてるところで、」

次々に見せられる写真は全て僕が被写体のものだが、カメラの方を向いているものは殆ど無い。少しブレていたり誰かと居たらしいところを切り取られていたり…。
つまりは殆どが隠し撮り、ということだ。

それも物心ついたかついていないかの頃のものから、つい最近のものと思われるものまで。

「まっ、て…なん、どうして」

「きみと付き合い始めてから、念のため全部仕舞っておいたんだ。今までは壁中に貼ってたんだけどさぁ。あ、色褪せるとやだからちゃんと全部にビニール被せてるんだよ。指紋付くのも防げるしね。でも朔の指紋ならどんどん付けていいよ。寧ろ付けてくれると嬉しい。いっぱい触って?」

「いやちょっと、えと、本当にこれ全部そうくんが?…ぼ、僕やっぱり一回家に」

帰ろう。そう逃げるように立ち上がろうとすると、優しい力で肩を押されやんわり止められてしまった。振り返ると今までの彼からは想像出来ない程の柔らかい笑顔を向けられまた戸惑ってしまう。

「ご家族には連絡しといたから大丈夫だよ?ご飯も後で作ったげるね。オムライスで良かった?好きでしょう。でも嫌いだからってピーマン除けちゃダメだからね?もう高校生なのに朔ったら結構子供舌なんだもんなぁ」

「え?ちが、そうじゃなくて」

何をさも当然のように…。

余りの情報量に理解が追い付かない。

何故彼はこんなにも沢山の僕の写真を持っているんだ?
何故、出会う前の写真まで持ってるの?
何故小学生の頃のエピソードまで知ってるの?
何故話した事もない情報まで知ってるんだ?言ったことあったっけ?僕が覚えていないだけで?

僕らが出会ったのはつい最近、一ヶ月くらい前…。高校生になってから、あの路地裏で…だろう?
それ以前のことなんて知る由も無い筈で、そもそも会話すら乏しかった僕らは生い立ちどころかお互いのことなんて精々名前と何となくの性格くらいしか知らなかった筈だ。

性格、か。だけどそれも全く違った。
嬉々として写真の説明を続けるこの真っ赤な髪の人は一体誰だ?

これがあの無口でクールで淡白なそうくん、なのか…。

彼は…実は僕の名前も通っている学校も、出会う前から知っていたんじゃないだろうか。いや、知っていたに違いなかった。
嬉々として知る筈のない僕のエピソードや趣味嗜好を話す彼は嘘を吐いているようには見えないし、元々知っていたとすれば辻褄が合うことも沢山ある。

しかしそれを認めれば、僕は僕の知る「そうくん」という人物を根底から覆さなければならなかった。

新しい彼の一面を知ることが出来るのは嬉しい。だけどこれはそんな乙女ちっくな一言で済む話じゃない。

僕のことを、彼はずっと前から知っていた…。どう足掻いても揺らがない事実はただただ僕の頭を混乱させるだけで、上手く言葉が出てこなかった。

「抑えるの大変だったんだぁ。でもここまで朔を不安にさせてたなんて知らなかった。本当にゴメンね」

「それはもういいけど、その…」

「これからは何でも朔に話すよ。不安にもさせない。二度とおれから離れるなんて言わせないからね」

言いながらまた強く抱き締められる。
彼はすっぽりと腕の中に収まってしまった僕を今にも蕩けそうな瞳で見つめながら額にキスを落とした。その一瞬がやけに熱くて、なのに唇を離された瞬間そこだけひんやりとして。意外にも柔らかかった感覚が額にじわりと残り続ける。

肩越しに映る床には異様な光景が広がっているというのに、抱き締められる体温にやけに安堵している自分にもおかしな感覚を覚えてしまう。
おかしい。色々とおかしなことがそこら中に転がっている。この異様さを気味悪いと何処かで思うのに、力一杯振り払えばきっとこの抱擁からも抜け出せるのに。
それなのに逃げようと、思えないのはどうしてなのか。

「そうくん、僕は」

「幻滅した?」

「え」

「おれのこと、嫌いになった?」

「ひぁっ」

殆ど口付ける距離で耳元に落とされた声に、熱い息に背筋がぞわりと粟立った。

それにしても…。

見上げて思わず「誰?」と零してしまうところだった。腕の中から見上げた彼はいつもの仏頂面なんてまるで嘘のようで、頬を紅潮させながらうっそりと微笑んでいる。
温度を宿していない人形のようだった瞳も、今じゃあ触れると火傷するんじゃないかってくらい熱い赤を煌めかせている。

「本当はね、見守ってるだけのつもりだったんだ。今回はおれのこと覚えてなさそうだったし…。なのにあんな場面見たらついカッとなっちゃって、嫌われちゃったかなと思ったのにまさか朔から告白してくれるなんて…マジで夢かと思った。別れる?あはっ、有り得ないだろ」

「蒼…?何言ってるのかちょっと、」

「分かんなくていーよ。おれだけが知ってればいい。それにしてもまたおれに捕まっちゃうなんてホント馬鹿だねぇ、ドジなのも変わんないね?よく変なのに絡まれるし放っとけないし。もう泣いて頼まれたって離してなんかやれないや。あぁ可愛いなぁ、かわいい。ばかわいい」

「ほんとに、そうくんなの…」

あの寡黙なそうくんは何処へ行ってしまったのか。実は一卵性の双子だったのだろうか。ドッペルゲンガー?アンドロイド?きゃとるみゅーてぃれーしょん?
そんな考えが浮かんでしまうくらい僕を包み込む彼は別人のようで、まるでタガが外れてしまったようにペラペラと早口で何か言ってる。

全身から伝わる熱と彼のあまりの変わり様に困惑する頭では、言葉は拾えても何を言っているのか内容まではちゃんと理解出来なくて、それでも痛いくらいに眼差しが訴えてくる熱までは無視出来ない。

一つだけ確かに分かったのは…。

どうやら僕の彼氏は、僕のことが好き…らしい。
少なくとも僕の一生分の写真を集めて、こうして身体中で熱を移してくれるくらいには。

別れ話を切り出した筈なのに、この状況は何だろう…。

未だにずっと頭上にはてなを浮かばせ続ける僕の肩にそうくんの額が擦り付けられる。真紅の髪が遠慮無く頬に当たって擽ったいんだけど僕の背に回された腕の力は一向に弱められる気配が無くて。
それどころかもう本当に一生離されないんじゃないかと思うくらいぎゅうっと固定されたままだった。

痛くはない優しい力なのに、猛獣を閉じ込める檻みたいだ。肩に流れるこの髪も…絶対に切れない、赤い糸みたい。
ロマンチストな自覚は無いが、彼の真紅を見ているとまるでそんな考えが浮かんでしまった。

…この髪や瞳を、この色を見るとやけに心が落ち着くのはどうしてなんだろう。

肩に預けられた頭に無意識に頬を摺り寄せると、パッと顔を上げられた。息がかかるほどの至近距離にあの端正な顔がある。
いつも帰り道に横から見上げるだけだった顔が、今はこんなにも近くにあって、正面から僕の顔を覗き込んでいる。

背中の温もりが少し減った。と思ったら、左頬を包み込むように手を添えられた。瞳は三日月の様に撓ったまま、それでもその中に真っ直ぐに僕だけを映しているのが分かる。

…まるで紅い月だ。
思わず見惚れてしまう。

髪と同じ美しい真紅の中に、困惑が抜け切らず間抜けな顔をした僕を、僕だけを映す月。

その瞳が、長い睫毛と共にぼやけて視界が途端に暗く翳る。

「朔…」

「んっ」

ふっと唇に近付いてきた温度を拒む理由なんて無かった。

初めはただ触れるだけだった柔らかい感触。それから輪郭を確かめるように彼の舌が唇をなぞれば、自然と僕は唇を開いた。

あわいから彼の温度を全て纏ったかのような熱い舌が入り込んでくる。望んでいた温度を全て与えられるような心地好さに頭も身体もふわふわしてしまう。

歯列をなぞって、舌を吸われて溢れる唾液ごと飲み込まれて。それまで頭の中を渦巻いていた疑問や困惑まで一緒に吸い取られてしまうようだった。

つうっと口端から零れる唾液さえも舐め取られるとそれまで我慢していた身体が思わずぶるりと震えた。それを確認した彼の口角がまた三日月のように釣り上がるのをぼやける視界で捉えながら、言葉にならない声ごと飲み込まれてしまう。

「あっ、ふぁ…」

「ふっ、かぁわいい…」

何分何秒経ったのか。
一方的な咥内の愛撫に食われるんじゃないかという錯覚も覚えてきて、怖いのか気持ち良いのか最早分からなくなってただ必死に彼にしがみついていた。

するといつの間にか後頭部を固定していた手がゆっくりと背筋をなぞって、するするとズボンとシャツの間に入り込んでいく。

「あっ…ちょっ、と待って、そう」

「こわいの?だいじょうぶだよ」

「くすぐったい、から…!や、ひぁっ?」

「背中、相変わらず弱いんだなぁ…さく…」

思いも寄らなかった刺激に僕の身体はまた素直にビクビク反応してしまうけれどその度に彼が嬉しそうに吐息を漏らすのだ。

ずっとこんな風に触れられることを望んでいた。抱き締められることを望んでいた。

嬉しい…筈なのに見慣れない彼の笑顔が僕の胸をざわつかせる。息が熱くて触れられたところからじわじわと溶けていってしまいそうで、なのにもうさっきの刺激が欲しくて僕はぎゅうっと彼の服を握り締める。

「朔…さく…」

すると手の力を強める程にそうくんはこれ以上ない程に幸せそうに微笑んで、甘ったるい声音でまた僕の名前を囁いた。

知らない。
こんな彼は、知らない…筈なのに。

どうしてこんなにも…。

「…蒼、泣いてるの?」

ふと僕を映す真紅が揺らいで、そこから透明な滴が流れ落ちるのが見えた。

そうっと手を伸ばして白い頬を濡らすそれを掬い取ると彼は少し驚いたように瞬きをして、またすぐにあの蕩けるような笑顔を見せる。

「あぁ、嬉しいんだ…。きっと、どうしようもなく」

「そうく、んぅっ?!」

ちゅっと僕の手の平に口付けた彼はそのまま唇を手首、腕へと移し、また僕の唇を言葉ごと塞いでしまう。

口付けの合間、譫言のように僕の名を呟きながら彼はまたその頬を透明な滴で濡らしていった。その一滴が口内に流れ落ちてきたせいか、少ししょっぱくなった唾液。

両方のそれが混ざり合ったものを舌で飲むように促されて僕はごくりと喉を上下し、彼もまた口端から伝う唾液を舐め取っては混ざり合ったそれを飲み込んだ。

まるで何かの誓い儀式のように、僕らは幾度も互いの体液を交換し合う。

「ふふっ、馬鹿なのは変わんないねぇ。さく。ねぇ朔」

「ふ、ふぁ?」

「聞かせて。おれのこと、どう思ってるの」

唇が離されると、その間につうっと渡された唾液が細い糸の様になって溶けていった。

普段より特段低い声で耳元で囁かれる。
いつもの低いだけの声とは違ってその声は余りに甘過ぎて、問われているのに用意されている答えはたった一つしかないように思えた。僕の口からも、出てくる答えは一つだけ。

「…すき。だいすき」

「うん。うん」

息も絶え絶えに目の前の身体にしな垂れかかってそう言うと、緩く後頭部を撫でられる。
とくとくと少し速い鼓動をすぐ近くに感じながら、だんだんと抜けていく身体の力。

見越していたかのように膝裏と背中に腕を回され、足が床から離れる感覚がした。
ぼうっと開いた瞼の向こうにはうっそり微笑う僕の恋人と、さらさらと揺れる見た目よりも柔い真紅の髪。
それから奥に炎のような熱を宿した、僕だけを映す蕩けた瞳。

あの日と同じ、芯の通った強い瞳。

…あの日って、いつだ?

熱に浮かされた頭ではもう何も考えることは出来なくて、ただ触れたところから伝わる温もりに身を任せる。

抱き締められたのは今日が初めての筈だ。
なのに僕は、この温もりを、この熱を知っている…気がする。

ねぇ蒼くん。
僕はずっと前から、きみのことが。

「すき…」

「おれもすきだよ」

生まれる前から、ね。

prev / next

[ back ]




top
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -