mitei 残夜 | ナノ


▼ 3

それからというもの、そうくんは本当に毎日僕のことを迎えに来てくれた。
いつも学校が終わるのが僕よりも早いのか、学校が終わる時間に違いがあるのかは分からないけど僕が彼を待たせることが殆どで、それでも彼は文句も言わず一緒に帰ってくれる。

そうくんの周りに群がっていた子達は日に日に減っていき、僕らが付き合っているという噂でも広まったのか誰も彼を口説こうとする人は居なくなった。少なくとも校内では、だけど。

そうして校門から僕の家まで、特に何を話すわけでもなくただ並んで一緒に帰る日々。
たまにぽつりぽつりと他愛も無い会話をすることはあるけれど、それも殆ど僕からの一方的なもので。
返事はしてくれるけれどどれも短く、素っ気無いものだった。表情を変えるどころか僕の顔を見てくれることも殆ど無くて、いつもずうっと前を向いたまま歩いていく彼の横顔を僕はただ見上げるしかなかった。

それでも冷たいとか突き放すような雰囲気は感じられない。ただ淡白というかクールというか…そういう性格なのかも知れない。
そうは思っても少しだけ、寂しいなんて思ってしまう僕は贅沢者なんだろうか。

だけどこれじゃあ付き合ってるどころか、親しい友人にもなれている気はしない。

もちろん手を繋いだりとかデートの約束をしたりだとか、そういった恋人っぽいことを期待しない訳でも無かったが…。
そういう訳で、僕らはとてもそんな雰囲気とは程遠い関係だった。

「それって倦怠期なのでは?」

「倦怠期って言うほど長くもないんだよなぁ…」

紙パックのストローを噛みながら、友人がこてんと首を傾げる。
つられて僕も同じ方向に首を傾げた。すると放置し過ぎて予想外に伸びていた前髪が目にかかって鬱陶しかったので、今度切ろうと思った。

「付き合い始めて一ヶ月くらい?」

「三週間くらいだよ」

「じゃあまだまだこれからじゃん」

「そう…だよなぁ」

確かにその通りだ。付き合いたてで一ヶ月もしないうちってもっとこう、ラブラブな感じじゃないの?
周りのカップルは皆そんな感じだし。

でも僕らの場合はきっと違うな。同じ枠組みに当て嵌める以前の問題な気がする。
だって僕は彼のことが好きだけど、恋愛的な意味で好きだけど、彼の方は分からない。

「付き合って」って言って「いいよ」って返された。それだけ。
考えてみればそれだけでも十分嬉しいことだし、毎日学校まで迎えに来てくれることも嬉しい。一緒に帰ってくれることもたまに名前を呼んでくれることも、奇跡みたいに嬉しいことなんだ。
だからこれ以上望むのはちょっと気が引けるんだけど、どうしても気になることは無視出来ない。

僕はまだ一言も彼から「好きだ」って言われていないのだ。
つまり、彼が僕のことを好きなのかどうか、例え奇跡的に好いてくれていたとしても恋愛的なものなのか友愛的なものなのかさえ怪しい。

相思相愛、なんて言葉が恨めしい。
言葉少なな彼の挙動や言動の端々から何か掬い取れないかなっていつも探してみるけど、残念ながら僕はそこまで人の感情の機微に敏感じゃなくて。どちらかと言わなくても鈍感な方だと、自他共に認める程だ。

「なら直接彼氏に聞いてみればいいんじゃないのかぁ?」

「うっ、それが出来れば…」

いや、例え出来ても…。
そうくんに直接訊くのが一番だっていうのは分かりきってる、んだけど。

「僕のこと好き?」って訊いて、「うん」って言ってくれたら嬉しい。それはもう飛び上がるくらいに。
でも逆に「ううん」とか「別に」って返されると、僕はきっと立ち直れないくらいに落ち込んでしまう。

それに直接そうくんに訊いたとして、後者の返答の方が容易に想像出来てしまった。
悲しいかな、僕はそれ程彼との関係に自信が無いのだ。これって一応「恋人」としてどうなんだろうか…。

うんうん唸る僕を見かねたのか、紙パックを袋に詰めながら徐に友人が口を開く。

「じゃあさ、試してみる?」

「何を?」

「お前の彼氏が、ちゃんとお前のこと好きなのかどうかを」

「えっ、どうやって?!」

直接訊く以外にそんな方法があるのか?!
ガタンッと机を揺らし食いつく様に問うと、友人は顎に手を当て暫く「うーん」と唸ったまま目を閉じて考え込んでしまった。
方法までは思い付いてなかったのか…。

「あぁそうだ!別の奴と仲良くしてるところを見せ付けて反応見るとか」

「例えば誰と?あ、もしかしてお前が協力してくれたり、」

「絶っっっ対やだね。だってお前の彼氏超怖そうなんだもん、オレは自分が一番可愛いしそんな危ない橋渡りたくない」

「そうくんは人を傷付けたりしな………、やっぱ止めとこうか」

ごめん、言い切れなかった。

そう言えば初対面の彼は正当防衛とはいえ思いっ切り殴る蹴るを繰り返していたな。いや、あれは最早正当防衛の範囲に収まりきるものかどうか…。とにかくそう思い直して、申し訳ないが友人のアイデアは無しにした。

まぁ、杞憂だろうけど。
あのクールで淡白なそうくんが嫉妬する姿なんて全然思い浮かばないんだけどね。

キレるどころか、僕に関してちょっとでも嫉妬してくれるなんてことは…まぁ無いと思う。

「オレからすれば、毎日迎えに来てくれるってだけでも十分脈アリだと思うんだけどなぁ」

「そう、かな」

「そうじゃね」

そうだったらいいんだけどなぁ。
ふと窓の外を見遣ると、もうあの赤い髪が校門の外で揺れているのが見えた。

季節外れの紅葉みたい…。
本当に綺麗だな。

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