様々な色を代わる代わる映し出すテレビが白い部屋の壁を彩る。
それをぼうっと眺めながらも、僕の頭の中に映し出されるのは一色だけ。
あの日から僕の世界を染め上げてしまった、鮮やかな薔薇を思わせるあの色だけだった。
『俺、お前と居られて幸せだったよ』
『もう終わりみたいに言うなよ』
「なぁ、そのドラマおもしろいか?」
「もちろん!お兄ちゃんも一緒に観ようよー」
食い入るように、ソファから半ば前のめりになって妹が観ているもんだからつい尋ねてしまう。
きっと今すごく感動的な山場のシーンなのだろうけど、無視もせずにちゃんと答えてくれるのがこいつの良いところだ。
視線はずっと画面に釘付けなままだけど。
『次がもし与えられたなら、またお前に……たいな』
『…ったよ。その時も絶対、…てやるから』
途切れ途切れに聞こえてくる台詞は切ない場面の筈なのに、やけに凛としていて。妹の言う通り少し観てみようかと画面に向き直るも、やっぱりやめた。
「うーん。いや、別にいい。風呂ってくる」
「えぇー?観たら絶対ハマるのにぃ」
画面に映し出される彼らは恋人同士なのだろうか。互いに見つめ合って、背景は思い切りボケて世界にはまるで彼ら二人だけしか居ないよう。
血の付いた指先で相手の頬に触れながら優しい声音で、愛の…いや、何か誓いのような言葉を囁く騎士の格好をした男。そして彼の腕の中にはそれに応えようと穏やかに微笑んでみせる健気な相手。
やはり結構切ない場面なのか、ソファで妹が涙ぐんでいる。
横からそっとティッシュを差し出すと妹は涙声で小さくお礼を言って箱ごとティッシュを奪い取った。
何だかなぁ…。思いっ切り感動しているところ申し訳無いけれど、いまいち作り物っぽくて感情移入出来ない。
そんな風に感じてしまう僕は結構淡白で冷めたニンゲンなのだろうか。
それにしても、あまりにもぐすぐすと鼻を啜る声が絶えなくて堪らずにまた訊いてしまう。
「そんなに感動するとこ?」
「するよぉっ!いいなぁ、私もこんな恋愛してみたい…。運命の相手と未来を誓い合って、例え生まれ変わってもまたその人だけを愛すの…。もちろん相手は超絶格好良い黒髪のクールな人ね。目は切れ長、スタイルはモデル並み!!」
「えぇ…そこは譲れないの?」
「もち!」
乙女心ってのはよく分かんないな。
正直現実にそんな人はいないと思うし、少女漫画の読み過ぎなんじゃないかと思う。
かと言って自分も、他人の事はとやかく言えないんだけど。
「…恋愛なんて、そんなにおもしろいモノじゃないのにな」
密かに呟いた言葉は誰に拾われるでもなく空気の中に溶けてしまった。
あー、考え過ぎてお風呂で寝ないようにしないと。
…明日また、彼に会う。
そろそろはっきりさせるべきだろうか。いやもうちょっとだけ…。いやいや、そんなの両方がしんどいだけで。
ここ最近僕の思考を占めること。もうそればっかりで、ハムスターの回し車みたいにぐるぐると同じところを廻り続けている。
一度この手で掴んでしまった糸は酷く頼り無げで、今にも千切れてしまいそうで。
いっそ直ぐにでも千切れてしまえば、もうこんな風に悩むこともあの人を苦しめることも無いんだろうか。
それでも手放したくない、なんて。
僕は一体何処まで浅ましい奴なんだろう。
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