銀色くんが学校に来ていないらしい。
たまーに授業を休んだり抜け出したり、お昼から来たりすることは何度もあった。
だけど一日丸っきり休むなんて彼にしては珍しい。
何かあったんだろうか。
風邪でも引いたかな。身体、丈夫そうに見えて意外と風邪引きやすいのかも?
お見舞いに行こうか。
あぁでも、彼の家知らないや。
それにお見舞いに行ける程親しいかと言われれば、そうだと言い切れない気もする。
彼の家が分かったとして、いきなり訪ねたりしたら流石に迷惑だろうか。
せめて連絡先だけでも交換しておくんだったかな。
そうすれば、何があったか、元気なのかどうかだけでも聞けるのに。
放課後いつものようにいつもの場所へと足を運ぶ。
銀色くんが居なかった所為か何となく沈んだ気分も、あの演奏を聴けば少しでも晴らすことが出来るんじゃないかと思ったんだ。
しかしいつまで経ってもあの音は降ってこなくて、冷たい廊下は無機質に冷たいままだった。
教室の中にも人の気配は無い。どうやら今日は、演奏者さんもお休みしているらしい。残念だけど、こんな事もあるもんだ。
ふうっと短い溜め息だけを落っことして、俺はその場を後にした。
次の日も銀色くんは学校に来ていない。
朝登校して机に鞄が掛けられていないことを見ると俺はまた落胆した。
いやいや、朝から来ていないからってそれだけは別に珍しいことじゃないし。
また午後になったらひょっこり顔を出すかも知れない。お昼休みになったらまた階段の踊り場で、銀に輝く彼を見つけられるかも知れないじゃないか。
そう期待して自分の席に着くと、クラスメイトの噂話が聞こえてきた。
所々途切れて聞こえなかったけどどうやら、銀色くんは停学処分になったらしい。
窓も開いていないのに冷たい風が足元を通り過ぎていくような嫌な感じがした。
気付けば俺の足は机からガタンッと立ち上がって、ホームルームの合図も聞こえない振りをして職員室へと向かっていった。
先生から聞き出せたのはやはり、銀色くんが停学処分になったことは本当らしいこと。
一週間の自宅謹慎で、他校の生徒に怪我をさせたのが原因だとか。
そっか。そうなのか。
病気とかじゃなくて良かった。
というか、期せずして俺は銀色くんの苗字を知ってしまった訳だけど、先生は何て言ってたかな。
カ、カグラギ…?かぐらぎくん、だっけ。どうやら彼はかぐらぎくんというらしい。
だから席が目の前なんだな。
しかし馴染みが無いので俺はそのまま銀色くんと呼ぶことにする。
勢いで先生に彼の住所まで聞いてしまおうかと思ったけど、寧ろ聞くまでも無く先生の方から俺に教えてくれた。
一週間分のプリントやら授業内容が書かれたノートなどを彼の家まで届けて欲しいとのことだった。
どうやら他に頼める生徒が居なかったらしい。俺は同じクラスで彼と普通に話せる貴重な存在、なんだって。
よく分かんないけど、届けに行くだけなら先生が行けばいいのになぁ。
しょっけんらんよーってやつじゃないの?
まぁ、別にいいけどさ。
放課後彼の家に行く前に、俺は恒例の演奏会へとまた足を運んだ。
やっぱり今日も居ないみたい。
いくら待っても優しい旋律は聴こえてこなくて、少しの寂しさの鉛を抱えたまま俺は銀色くんの元へ向かった。
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