mitei 藤倉くんはちょっとおかしい6 | ナノ


▼ 6.深海と救世主

「隊長ぉー。まだ澤隊員の元気が戻りませーん」

「そだなぁ…。最近どの部活にも顔出してないみたいだし、ホントどうしたんだろう」

「やっぱりポメ連れてきますか?」

「オレももふりたいけど根本的な解決策にはなんねぇわ…」

心配してくれる彼らの声を聞くとも無く聞きながら、俺はどうしたら良いのかをぐるぐる考え続けていた。
答えなんて無い。だって問いすらもはっきりしていないのだから。

俺は誰にも傷ついてなんて欲しくなかった。
俺はただ身体を動かすのが好きで、頼られるのが嬉しくて、頼まれればただ何も考えずにその部活動に参加した。
それがいけなかったのかも知れない。いや、きっとそうだったんだ。
俺は自分でも知らない内に、毎日練習に励んでいる人達を侮辱していたのかも知れない。

何となく分かっていて、それでも断りきれずに今までなあなあにしてきたツケがあの時遂に来てしまったんだ。
俺に直接降りかかってくれれば良かったのに、寄りにもよってあいつに。

今まで色んな悪戯をされたり嫌味を言われたこともあった。特に気にもしていなかった。
なのにその矛先が自分以外に向いた途端に、俺はどうしても怖くなってしまって。

俺がずっと俺自身に向けていた切っ先もいつかあいつに向けてしまいそうで、そんな弱っちい自分を曝け出すのも怖くて怖くてどうしたらいいか分からなくて。
甘えていたいと思ってしまう。

あれだけ偉そうなことを沢山あいつに言っておいて結局俺は無力のままだ。
無力で無知で、大して知恵がある訳でも無くて。

それでも心地好さに身を任せて、ただ大切にしてくれる手を俺も大切に握り返したかった。
ただ笑っていて欲しかった。

それだけで良かった。

なのに…傷つけた。
あの時藤倉を傷つけてしまったのは俺が原因なんだと、言えばきっと悲しませるだろうか。

だけど逆にあいつもきっと知っている。
自分が必要以上に謝ってしまえば俺がどんどん気にしてしまう事を。
だから罪悪感も沢山の謝罪の言葉も全て心の奥に仕舞い込んで、何も言わない。

何も言わずに、傷を全て自分の中に閉じ込めてまた俺を守ろうとするんだろう。

俺はそれが悲しくて、寂しくて、もどかしくて…そして嬉しい。

なぁ、藤倉。
俺って結構嫌な人間なんだ。

お前が傷つくことを何より恐れていながらも、お前がそんな風に俺を想ってくれているんだと感じる度に己の醜い本性を思い知るんだ。

お前のそんな痛々しい優しさを…嬉しいなんて、思ってしまうんだ。

だから俺は…。

俺はもう、藤倉からも離れた方が良いのかも知れない…。

思考がネガティブの海のどん底に沈んだ時、急に水面がぼんやり明るく光り出した。

「あ」

「お」

「隊長、もう大丈夫そうッスね」

「ふっ、だな」

ガララッと教室の扉を開く音がして、誰かが俺の机まで近付いてくる気配がした。

あ、よく知ってる匂い。
その香りに誘われる様に無意識に机から顔を上げると、そこにはやっぱりどうしようもなく俺を安心させるあの姿があった。

しかし無言で俺の腕と鞄を掴んだ藤倉は、そのまま教室から俺を連れ去ってしまった。

「隊長…大丈夫なんスかねアレ」

「分からん。けど澤隊員の無事を祈る」

prev / next

[ back ]




top
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -