最近、また藤倉と二人で帰ることが少なくなった。
全くって訳じゃない。
週五じゃなくなったっていうだけで、別にそんなにおかしいことじゃない…筈なのに。
俺が口を滑らせてしまったあの日から数日後、帰り道で唐突に藤倉が言った。
「澤くん、暫く一緒に帰れる日が減るかも」
「え、そうなの?」
「んー。こないだ臨時でバイトしてたトコあるじゃん?あそこがまたシフト入ってくれないかーってうるさくてさぁ…。一時でも澤くんと居られないなんて辛いんだけど…くっ…!」
「あー、あそこなぁ。そんなに嫌なら断ればいいのに…。まぁ俺はいいけど、あんま無理すんなよ?」
「毎日じゃないから!週に何度かだけだから!すぐ終わらせるから!」
「終わらせるって、そういう、」
「ホントすぐだから!」
「あ、おう…」
だからそんなに嫌なら断ればいいのに…。
それにしても珍しいなぁ。藤倉はふんわりしてるけど嫌なことは嫌って言いそうなタイプなのに、バイトは断らないなんて。それ程欲しいものでもあるんだろうか。
店側もよっぽどこいつのことを信頼してるんだな。まぁ確かにこいつが居ればお客さんも増えるだろうけど…。主に女性客が。
あれ、何かもやってした…胃もたれか?
「澤くん充電しときたいからぎゅってしてい、」
「ダメ」
それからというもの、週に何度か本当に一緒に帰れない日が増えていった。
いつもは頼んでもいないのに教室まで迎えにくる癖に、終業の鐘が鳴っても教室の前にあいつは居ない。
一緒に帰れない日は前もって連絡が来るからあいつの姿が無くても驚くようなことじゃないのに、何だか藤倉が一時学校に来なくなってしまった時を思い出して少し寂しい気分になってしまう。
特に今は何の部活動にも参加していないから、元は帰宅部の俺はもやもやとした曇り空の心を抱えて一人帰路につくしかなかった。
家までの帰り道がやけに遠い。
気づけばふと、つい最近の出来事を思い出していた。
俺は…いつまでも藤倉が隣に居るなんて、何で勝手に思い込んでしまっていたんだろう。
あいつにだって自分の世界があって俺はたまたまそのちょっと近くに居ただけに過ぎないのに、何でこんなにポッカリ穴が開いた様な感覚になってしまうのだろう。
高校に入ってからあいつと居るようになって、たった二年にも満たない。あいつの人生の中で俺が占める割合なんて、きっと数パーセントにもならないのに。
『一生はかかるよ』
その言葉が本当であったとしても、ずっと隣に居続けられる可能性なんて絶対的なものじゃないのに。
あいつは恋人は要らない、みたいなことを言っていたけどそれだって今そう思っているだけで、高校を出て成人して、大人になったら変わるかもしれない。
寧ろ変わらない方がおかしいよ。
例えずっと友人で居られたとして、それでも今みたいに当たり前に隣に居てくれる…居させてくれる保証なんてどこにも無いんだ。
あいつにもし恋人が出来て家族が出来て、そうしたら自然に疎遠になっちゃったりして。
何でこんなずきずきすんだろ。
何でこんな嫌な気分になっちゃうんだろ。
友達が…藤倉が幸せになるってめちゃくちゃめでたいことじゃん。俺はそう望んでるし、あいつがずっと笑ってられればいいなって思う。
思ってる…筈なんだけどなぁ。
まだありもしない未来予想図が勝手に頭を支配して、幸せである筈のその光景が何故だか異様に俺の心を重くさせた。
やだなぁ、何だか最近の自分はウジウジしてて、悩んでばっかで、いつも以上にネガティブだ。
独りでいると余計に。
ヘラヘラ笑うあの姿が隣に無いだけで、やけに道が広く感じてしまう。
いつもはあいつが鬱陶しいくらいに笑ってるから気付かなかったのかな。
あいつが俺の暗いところも吹き飛ばしてくれてたんだろうか。
…やだな。
無意識に胸の辺りに手を置いた。
いつの間に、こんなに藤倉でいっぱいになってたんだろう。
「よぉ…藤倉くんって言うんだっけ?あん時の借りキッチリ返してやるよ…」
「まぁこんなもんで返せるとは思わねぇけど、早く終わらせようぜ」
そんで早く澤くんの隣に戻らなければ。
無理。いやもう、本当無理限界が近い。
俺のHPもとい澤くんゲージが真っ赤でヤバい。
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