紺碧が包む。
冷たくも暖かくもなく、重くも軽くもなく、けれど悲しくも寂しくもない。
肺にまだ残っていた空気が喉を伝って溢れ出て、まあるく形を変えながら光がある方へとこぽこぽ上っていく。
変なの。変なカタチ。
おれもあんな風に自在にカタチを変えられたら、もっと上手く出来たのかな。
深海で吐き出したこの空気の塊を、拾うものは何もいない。
役目を終えた肺はやがて姿を変え、おれは海水の中から僅かな酸素を取り込むんだ。
そうしてただ底に、底がある方に向かって沈んでいくだけ。
あなたが待ってる水底へ、黒に近い青が支配する世界へ身を任せて目を閉じる。
水圧が背中を撫でる。
ゆらりゆらりと風のように流れる水の中で、確かに灯った体温がおれの手首を掴んだ。
ゆっくりと閉じた瞼を開けると、嗚呼また。
何でそんな泣きそうな顔するんだよ。
馬鹿な奴。
ふっと微笑んで口付ければ、目からキレイな光がはらはらと流れては上っていった。
そうか、水中で泣くとそうなるんだな。
キレイだな。
掴まれていた手首を引き寄せて抱き締めるとやけに温かい。そして、気持ちが良いのだ。
「 」
うん。そうだな。
「 」
分かってるよ。だからおれから来たんだよ。
はらはらと、暗闇の中を照らす星みたいな涙。
宇宙みたいなその中心で泣きながらも微笑うあなたにやっと、おれも伝えられるんだ。
違う言葉で。
同じ想いを。
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