mitei アタラクシア | ナノ


▼ ほんの僅かな、だけど確かなあいを。

紺碧が包む。

冷たくも暖かくもなく、重くも軽くもなく、けれど悲しくも寂しくもない。

肺にまだ残っていた空気が喉を伝って溢れ出て、まあるく形を変えながら光がある方へとこぽこぽ上っていく。

変なの。変なカタチ。

おれもあんな風に自在にカタチを変えられたら、もっと上手く出来たのかな。

深海で吐き出したこの空気の塊を、拾うものは何もいない。

役目を終えた肺はやがて姿を変え、おれは海水の中から僅かな酸素を取り込むんだ。

そうしてただ底に、底がある方に向かって沈んでいくだけ。

あなたが待ってる水底へ、黒に近い青が支配する世界へ身を任せて目を閉じる。

水圧が背中を撫でる。

ゆらりゆらりと風のように流れる水の中で、確かに灯った体温がおれの手首を掴んだ。

ゆっくりと閉じた瞼を開けると、嗚呼また。

何でそんな泣きそうな顔するんだよ。

馬鹿な奴。

ふっと微笑んで口付ければ、目からキレイな光がはらはらと流れては上っていった。

そうか、水中で泣くとそうなるんだな。
キレイだな。

掴まれていた手首を引き寄せて抱き締めるとやけに温かい。そして、気持ちが良いのだ。

「   」

うん。そうだな。

「      」

分かってるよ。だからおれから来たんだよ。

はらはらと、暗闇の中を照らす星みたいな涙。

宇宙みたいなその中心で泣きながらも微笑うあなたにやっと、おれも伝えられるんだ。

違う言葉で。

同じ想いを。

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