「ん、んぁ…。あれ、ここは…」
「おはよう章ちゃん。夜中だけど」
「おは、よう…?………って、いぶ、一吹!!何で?俺、確か」
「酔っ払って結局うちに帰ってきたの、覚えてないの?」
「へ?そう…なのか?」
「うん。あの人も手伝ってくれたよー。名前知らないけど、章ちゃんのトモダチ」
「え、あ、そうなんだ…。あれ」
「おっとぉ。まだ酔ってるんだよ章ちゃん。寝てなよ」
「うん…」
くらっと眩暈がして、少し上半身がフラついたところを一吹に支えられもう一度寝かしつけられた。
俺が目覚めるとそこはいつも通りの景色だった。つまりは俺の、俺と一吹の家。けれど俺の記憶では確か一吹と喧嘩して友人の家に駆け込んで色々相談して、そこで泊まらせてもらって…。あれからまた何かあったんだろうか、妙に身体が重いというか、怠い気がする。
おっかしいなぁ。
俺、酔って記憶を失うタイプじゃないと思ってたんだけどなぁ…。そもそも今日の、いや日付が変わってるからもう昨日か?ともかく今回の飲み会ではキス魔の先輩のおかげでそんなに飲んでないし。
そう言えば一吹、雰囲気がちょっとピリピリしてるな。相変わらずの無表情だけど。
そりゃそっか、さっき喧嘩しちゃったもんな。それなのにここまで帰ってくるの手伝ってくれたんだ。
何でそうなったのか全然分かんないけど、何だか申し訳無いことをした。
先輩の時も怒っちゃったけど何だかんだでこいつには世話になってる。
「章ちゃん今日はもう疲れたでしょう。今日はごめんね。おやすみ」
「ちが、俺の方こそ…言い過ぎたよ。悪かった。運んでくれたり色々…ありがとう」
「うん」
強烈な眠気と戦いながら途切れ途切れにそう言うと、一吹はふっと柔らかく微笑んだ。
あ、笑うとやっぱ…昔みたいにあどけなくて…かわ、いい…。
だめだ、ねむい…。
珍しいこの笑顔を、もう少し見ていたいんだけどなぁ。
「い、ぶき………」
「おやすみ。章ちゃん」
またすっかり寝落ちてしまった俺の頭を優しく撫でながら、一吹がそっと額にキスを落とした、気がした。
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