空気がそこにあるだけでは、意味が無い。
呼吸をしなきゃ。
吸って、吐いて、また吸って。
酸素を取り込んで二酸化炭素を出すんだっけ。
でもそれだけじゃ足りないから、もっと空気を取り込みたい時は深呼吸をする。
深く深く息を吸って、たくさんたくさんおれの中に取り入れて、不要なものは吐き出して取り込んだものをおれの一部にする。
だけど章ちゃんに不要な部分なんて無いから、二酸化炭素の代わりにおれをあげる。
「ふっ、も、やぁ…!」
「うん、うん、きもちーね」
「そ、んなんじゃ、あっ、待っ!ふ…んぅう」
「ん…。ふ、ふふっ。また出ちゃった?いいこ」
おれの腕の中で顔を真っ赤にして喘ぐ章ちゃんは、今まで想像で作り上げてきたモノよりも遥かに綺麗で色っぽくて、扇情的で。
おれは漸く手に入れたそれを食い尽くす勢いで彼を貪っていた。
暗闇で深く深く繋がれた手は解けはしない。
初めてとは思えない程の感度で気持ち良さに耐えようとする彼は羞恥と生理的な涙で顔をぐしゃぐしゃにしていた。その額に滲む汗すらも美味しそうに思えて、遠慮無く舐め上げる。
最早そんな刺激にすら過敏になってしまったらしい彼が舐められる度にびくびく身体を震わせるものだから、それが可愛くて身体中におれの舌を這わせてやった。
何度か吐精した彼の、いや、おれたちの身体は汗と精液と色んなものでべとべとに濡れていたがそれすらも気にしない。
寧ろ溶け合っているみたいで、心地好くもあった。
そう言えば、章ちゃんは意識が飛ぶ前におれに訊いたんだ。
「い、ぶき…は、俺が…ぁっ、他の奴とこんな事しても…へ、平気、なの…?」
「なんで?」
「な、んで…って…」
「ふふっ、馬鹿だなぁ」
愚問だよ。
「あ、雨宮。その首の痣…」
「え、何かなってる?」
「いや…何でも」
「居た居たー。帰ろ?章ちゃん」
後ろ姿でもおれの声に反応した耳は赤く、すっと抱き寄せた肩は無抵抗におれに凭れかかった。
そうだよ、きみはおれだけに触れていればいい。
視界の端に映り込む絶望の表情は予想通りだしどうでもいい。ごっこ遊びはここまでみたいだ。
おれ以外が章に触れる。
おれ以外がこの空気を吸う。
そんな未来、来ないからね。
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