「こないだ何か世話になったらしいな。…一吹から聞いた。突然押し掛けた上にごめんな、ありがとな」
「お、おう…」
数日振りに会った大学の友人は何だか素っ気ない。やっぱり怒ってるんだろうか。すごく迷惑掛けちゃったみたいだからしょうがないか…。
コンビニのちょっとお高めのプリンを差し出すと、友人は小声で「さんきゅ」と呟きながら恐る恐る受け取ってくれた。何でそんな慎重なんだ。毒なんか入れてないぞ。
…あれ、手が少し震えている。視線はきょろきょろと忙しなく何かを探しているようで、俺とも殆ど目を合わせてくれない。
これは怒ってるというより、何かに怯えているような…?気のせいか?
「あ、雨宮…。あの、さ、身体大丈夫か?」
「身体?ああ、二日酔いも無いし大丈夫だぞ!迷惑かけた上に心配させて悪いな」
本当にこいつは出来た友人だな。
いつもより挙動不審なのがちょっと気になるんだが、お前の方が大丈夫か?
「大丈夫なら、良かった…。それとさ雨宮、オレ本当は、」
「終わった?章ちゃん」
「あ、一吹」
「ひっ!」
「ん?どしたん?」
「あの!オレちょっと用事あるから帰るわ!プリンありがとな!」
「お、おー?気を付けてな…?」
一吹が声を掛けると、友人はそそくさと荷物を纏めて廊下へ駆けて行ってしまった。どうしたんだ本当に。それに何か言いかけてた気がするんだが、良かったんだろうか。気になるな。
無言で俺の隣に腰掛けた幼馴染みの顔をじいっと眺めてみるも、いつもと何の変わりもない。しかしさっきの友人のあの態度、何だか一吹から逃げるみたいな感じだった。
「なぁに章ちゃん」
「お前…あいつに何か変なことしてないだろうな」
「変なことって?」
「明らかにお前にビビッてた気がしたんだけど。お前一体何したんだ」
「なぁんにも。…おれはね」
「本当かなぁ」
ちょっと言い方に含みがあったような…。
しかしいくら変人と言えど、一吹が直接俺の交遊関係に何かちょっかいを出したりしたことは今まで一度だって無かった。まぁ彼女とか恋愛関係は置いといて。
ともかく俺の友達に何かするような奴ではない、と思うんだけど…。俺の知らないところで喧嘩にでもなったのだろうか。でも一吹が誰かと言い争う姿なんて想像が付かない。こいつはおっとりしてる様に見えるが口より先に手が出ちゃうタイプだし、そもそも喧嘩に発展する程誰かに興味を抱いているのも今まで一度だって見たことが無い。
けどさっきの友人の態度は明らかにおかしかったし…うーん…。
一吹に聞いたってきっとはぐらかされるだろうから、今度会った時にでも俺から直接聞いてみようかな。
…教えてくれるかな。
「章ちゃん怒ってる?」
「怒ってる…訳じゃない。悩んでるの」
俺がうんうん唸っていると一吹がひょいと顔を覗き込んできた。少し長めの前髪が重力に逆らわずに揺れて、隠していた褐色の瞳を晒け出す。
ちらりと見つめ返すも、いつも通りの温度、いつも通りの無表情。しかしその奥に少し、ほんの少しだけ心配そうな色が見えた気がしたのは俺の願望だったのだろうか。
prev / next