残り時間30秒…20秒…10秒…
バスッ
勢いよくシュートが決まった。
鳴り響く試合終了の合図。
「終了ー!!B組の勝ちー!!」
一年に二回行われる球技大会。
今回男子はバスケ、女子はサッカーだ。
決勝試合残り数秒というところで、俺は見事逆転シュートを決めた。体育館には既に敗退したクラスや、競技が終わったらしい女子も見学に来ておりざわついていたが、試合終了の合図の後一瞬の沈黙が訪れた。
「………マジかあいつ」
「わぁーー!!」
「すげぇっ!あいつやりやがった!」
「澤くんかっこいいー!」
「やっぱり運動神経やべーなぁ」
「澤ぁーー!よくやった!!」
次々に歓声が飛び交い、一斉にコートにクラスメートが集まる。
「いてっ!ちょっ!分かったから!」
肩を組まれ、背中をバシバシと叩かれ、頭をぐしゃぐしゃ撫でられ…もみくちゃにされるがとにかく皆喜んでくれてるみたいで俺も頬が緩む。昔っから身体動かすのは好きだったけど、こういう時特に運動出来て良かったって思うんだよなぁ。
「お前やっぱすげーよ!一瞬イケメンに見えたわ!」
「…何か複雑だわ。喜んでいいのかそれ」
優勝を喜ぶクラスメートの中に埋もれながら、一瞬背中にピリッとした視線を感じて振り返る。
「…気のせいかな」
ふと、彼の顔が浮かんだ。
球技大会から数日経った昼休みのこと。
「あれ、藤倉くん一緒じゃねーの?」
「あー何かしばらく忙しいんだって」
「ふうん?」
毎日ではないが結構頻繁に藤倉と昼休みを過ごすことが多いから、友人にもすっかりそのイメージが定着しているらしい。
よく一緒にいるせいか分からないが、藤倉目当ての女の子に彼の所在を聞かれることも多々あるくらいだ。
しかし何故か彼は最近忙しいらしく、校内で一緒に過ごす時間は減っていた。
帰りは一緒に帰ってるけど。
「何か球技大会が終わってから特に忙しそう。何してんのかは聞いてないけど」
「あ!そういやあいつ、昨日また告白されてたなぁ」
「え?」
藤倉が告白で呼び出されるなんて別に珍しいことではないが、友人が言うには球技大会後特にその頻度が増しているのだそうだ。
「まぁ澤も凄かったけど、藤倉くんもすげー活躍してたし当然じゃね」
「そっかー。俺自分の試合に夢中で見てなかったわ」
「てかさ、お前もあんだけ活躍したんだから告白とかされてないの?」
「ねーよバーカ。カッコいい奴が活躍するからモテるんだろ」
それにしても、そっか…そんなにカッコ良かったのかあいつ。他クラスの試合もちゃんと見とけば良かった。
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「あー…疲れた…」
裏庭でひとり溜め息を吐く。
「澤くんがカッコ良くシュートとか決めちゃったからなぁ…おかげでいい写真は撮れたけど」
胸ポケットから数枚取り出して眺める、平たく温度のないあの子。
本当は本人の顔が見たいけど、とりあえず写真で我慢だ。
無防備に着替える彼や決勝でシュートを決めた瞬間、休憩時間中に談笑する愛くるしい笑顔、優勝が決まってクラスメートに囲まれ頭を撫でられている姿。この手は確か…。
彼に触れた人間は全て記憶している。それから。
澤のことをカッコいいと言った女子はあと何人だろう。彼は普通にしてればそれほど注目されることもないのに、運動神経は抜群に良いので体育大会や球技大会の後が困る。
いや、そういうところもカッコ良くて好きなんだけど。
「早く一緒にお昼食べたい…」
まぁ全部俺が勝手にやってることなんだけど。
紙の中で笑う彼を唇に押し当てる。
本物の匂いが恋しくて堪らない。
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