「…何だこれ?」
普通に登校して普通に靴を履こうと下駄箱を開けると、中には普通でない謎の真っ白い箱が入っていた。箱の上には、なんとも綺麗な字で「澤くんへ」と書かれている。
こんなことするのは一人しかいない。
「藤倉、これ下駄箱に入ってたんだけど」
「喜んでもらえたかな?」
「いや、喜ぶっていうか…何これ?」
「豚さんだよ?」
そう、謎の箱を開けると中には愛らしい豚の貯金箱のようなものが入っていた。瞳がくりっとしていて愛らしいが…一体どういうチョイスなんだ。っていうか「豚さん」って…さん付けって。
後ろで会話を聞いていたらしい女子が「聞いた?!可愛くない?!」と興奮している。
「俺、今日別に誕生日とかじゃねぇよ?」
「知ってるよ。いいんだ、俺があげたいだけだから」
「それは有難いんだけどさ…何で貯金箱?」
「可愛いでしょ?特にこのくりっとした瞳が澤くんみたいで。ね、もっとよく見てみて」
何言ってんだこいつ…。そう思いながらも俺は藤倉に言われた通り豚さんの瞳をじっと覗き込んだ。確かによくある黒い点を置いただけみたいな目じゃなくて、造りが凝っていた。赤や緑や黄色…角度によって色を変え、何層ものガラスが重なってるみたいに反射している。中にビー玉でも入ってんのかな。一体どうなってるんだろう。
「まぁ確かにすげー良く出来てるけど、ってかどうしたの」
俺が豚さんと見つめ合っている横で、何故か藤倉は目を押さえて天を仰いでいた。
どうしたんだろ。目に何か入ったのかな。
「あのー、藤倉?何してんの」
「へ?あぁごめんごめん、何でもないよ」
「そっか?」
漸くこちらを向いた藤倉は口元を押さえたままだ。どっかしんどいのかな。
と思うと、今度はスマホを覗き込んでにやにやしている。本当に何なんだ。
「あー、やっぱ超かわいー…」
何だかすごく楽しそうだな。いつもたまにおかしくなるけど、いまいちこいつのスイッチが分からない。
「なぁ、本当に貰っていいのか?」
「うん。机の上とか良く見えるところに飾ってね」
「?…いいけど」
「壊しちゃ駄目だからね」
「壊さないよ」
「大事にしてね」
「…うん。えと、ありがと…?」
よく分かんないけど、あいつにもらった豚さんはとりあえず勉強机の上に飾ることにした。
勉強中によく目が合って気が散るけど、可愛いから良しとする。
----------
「とりあえずこの可愛すぎる澤くんは待ち受けにして、と…駄目だ。スマホ開く度に俺の心臓がもたないかもしれない…」
prev / next