mitei 【藤倉くん】マーブル色の夜に ※未完 | ナノ


▼ マーブル色の夜に

するりと撫でた脇腹は程よく筋肉がついていて、俺の手の平よりも少しだけ湿っていた。風呂上がりだからだろうか。それとも、緊張しているのだろうか。

「…硬いだろ」

「ふはっ」といつもみたいに顔を歪めて彼が笑う。それから直ぐに目を逸らして、白いシーツと自身の腕で顔を隠してしまった。

けれど黒髪から覗く耳は真っ赤に染まっていて、さっきの笑みが照れ隠しだったことが分かる。

「硬い」というのは女の身体と比べて、という意味なんだろうな。

そう思っているとやっぱりポツリと震える声が聞こえた。
「俺、女の子じゃないよ」と聞き落としそうになる程小さな声で彼は言う。俺はただ「うん」とだけ返した。

そんな事分かりきっている。
だけどこれから何をされるのか分かっている彼は、少なくとも自身の身体が女のそれでないことを気にしているらしい。

そりゃあ彼には本来そういうことをするための性器も備わっていないし、抱くより抱かれる方が負担も大きいだろう。
怖くなったのかな。今からでも止めた方が良いだろうか。彼のことを想うならば、だけど想うからこそ。

俺は俺の想いを止められない。

触れたくて触れられたくて、繋がりたくて。俺の手で汚したくてしょうがないんだ。

確かにこうして触れるきみの身体は俺が今まで触れてきた女の身体とは違って柔らかいものではないけれど、きみはもしかしたらそういうことを気にしているのかも知れないけれど、だから何なんだろう。

こうして誰かに触れることを強く焦がれて、俺の腕の中で乱れるきみを想像して、こんなにも全身で惹かれているのに。

俺にとってはきみがどんな姿であってもきみには変わりないし、柔らかいとか硬いとか、できるとかできないだとかそんな事だってどうでもいいのに。

そんな事どうでもよくなるくらいに、きみに触れていたいのに。

ゆっくり顔を近付けて首筋にキスを落とす。真っ赤な色は耳から首筋までも染めてしまったらしい。

マーブル色の感情を込めてキスマークを付けていると、彼が擽ったそうに身を捩った。逃げられないように、無意識に両腕で抱き締める。

するとまた枕に顔を埋めたままの彼が、ポツリと呟いた。

「…気持ち良く、ないかもよ」

「………へ」

「だからその、俺…そんな柔らかくない、し…。声だって、聞いたら萎えるかも…だし」

「え、と…え?」

そうだ、きみはそういうひとだった。
自分の負担の事ではなくて、俺が気持ち良くなれるか否かを心配していたのだ。

そういうところ、嫌いじゃないけどホントに馬鹿だな。

…本当に、馬鹿だなぁ。

もう一度するりと同じところを撫でる。
すると堪え切れなくなったのか、枕の隙間から「んっ、」と我慢するような艷めかしい声が漏れた。

あぁ、あの日と変わらない。
初めて俺の中に熱を灯した体操着の隙間から見えた白い肌は、やっぱり日に焼けてなくてあの日と同じ色。

あの日から俺はどんな女にも反応しなくなっちゃって、気付いたら何処かにきみの面影を探していた。

髪が黒いとか背の高さが同じくらいとか、そんなくだらない事でも共通点を探すけどやっぱりきみはきみしか居なくて。

そこに居もしないきみを、俺はずっと抱いていた。無駄に甲高い女の喘ぎ声が凄く邪魔で五月蝿くて、イヤホンで録音したきみの声を聴きながらシた事もある。

そんな事、きみは知る由も無いもんな。

彼の柔肌をゆるゆると撫で擦りながら、初めて彼を白いシーツに押し倒した時のことを思い出す。あの時のきみは、自分の上に覆い被さる俺がどんなにどろどろしたものを隠していたかなんてまるで気付きもしない素振りで。

それがどうしようもなく愛おしくて眩しくて、憎らしかったのを覚えている。

「んぁっ、ん…」

「痛い?」と耳元で聞くと、彼はふるふると首を振った。

「いた、くはな…い」

「まだ指一本挿れただけだよ。…動かすよ?」

「ん…ん、んぅ」

枕に顔を押し付けて下半身の違和感に耐える彼の耳はずっと真っ赤なままだ。リンゴみたい。

…顔が見たいなぁ。

欲望のままに真っ赤なリンゴ色に舌を這わせると、吃驚したらしい彼がパッと顔を上げた。

ごくりと、勝手に喉が上下する。

涙で濡れた黒い瞳に耳と同じくらい真っ赤な頬、わなわなと震えた唇は唾液でいつもより艶めいていて…。

悪戯に指を動かすと、彼が「ひぁっ!」と驚いて背中をびくりと跳ねさせた。

美味しそう…堪らない…食べたい。全部全部、食べちゃいたい。

気付くと俺は震える唇に噛み付いて、舌で無理矢理開けた隙間から彼の咥内に割り入っていた。温かい、を通り越して熱い。

逃げる舌を絡め取って俺の温度を押し付け、歯列の裏から頬の裏まで余すところなく舐めてはまた舌に絡み付く。

どちらのものか分からない温度に酔いしれながら、飲み込みきれずに溢れ出す唾液が彼の口端から流れ落ちた。それすら勿体無くて直ぐに舐め上げては、ごくりと音を立てて飲み込んだ。

「くちあけて。…飲んで」

「ちょっとま、んぅっ、は、ぁ」

酸素を求める短い呼吸の音とぐちゅぐちゅといやらしい水音が、四角い部屋に響く。

彼の中に俺がいる。

まだ少しだけだけれど、彼の身体の中に確かに俺がいる。

もっと、もっと奥に…。一番奥まで入りたい。もっと深く深く、繋がりたい…。

口付けの間に指を増やして、探るように彼のナカを掻き回した。



「…怖い?」

「ううん…。ごめん、やっぱちょっと…こわい、かも」

「だいじょうぶだよ、」

おれがずぅっとまもってあげるからね。

おれ自身からまもってあげられる保証は、ないけれど。

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