mitei 守るための、嘘 | ナノ


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嘘をつくのは、悪いことなのだろうか。

嘘は悪で、正直が善で。小さい頃読んだ絵本ではいつも正直者が得をして、嘘つきは必ず悪者扱いされていた。

ねぇ。なら俺は、悪い奴ってことになるのかな。



「ねぇちがさきくんってさ…」

「あぁ、暗いよねぇ」

「誰とも喋らないし…」

「あ、でもいつも緋色くんと一緒にいるじゃん」

「そうだ、緋色くんもあんまり私たちと喋ってくんないよね…幼馴染みなのは知ってるけどさ」

「紺くんとふたりでいてばっかり。ねぇもしかして、」

「緋色くん優しそうだもの。嫌々一緒に居るんじゃないの?」

なんて、教室の女子たちが噂しているのを聞いてしまったのは確か小学生の時。
たまたま通りがかった教室の中から聞こえる言葉たちは、文章としては理解出来るけれどその意味までを理解するには少し時間がかかった。

「ひいろ?どうしたの?」

廊下にぼうっと突っ立っている俺を心配したのだろう。黒い癖っ毛をふわりと揺らして、俺の分のランドセルを差し出しながら彼が尋ねる。俺は荷物を持たせてしまったことを少し申し訳なく思いながらランドセルを受け取って、隣に並んで手を差し出した。

「あぁ何でもないよ。帰ろう?紺」

「…うん?」

繋いだ手は子供らしく柔らかくて温かい。ずっと握っているとじんわりと汗が滲むけれど、俺にはそれすら心地良かった。…紺はたまに嫌がったけど、俺は離してなんてやらないんだ。そうして今日も、二人で同じ道を歩く。

あぁ、離したくない。離れたくない。

俺はただ、一緒に居たいひとと居るだけだった。なのに何で、紺だけが悪者にされてるんだろう。何で、俺のことを悪く言わないで紺のことだけを悪く言うんだろう。
周りの声なんて俺にとっては雑音みたいなものだけど、紺が悪く言われているとなれば話は別だ。

何でみんな俺じゃなくて紺を悪く言うの。
何で二人だけでいちゃいけないの。

なんで。

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