mitei なまえ | ナノ


▼ なまえ

「…零」

「なぁに」

「何でもない。呼んでみただけ」

「そう」



かれに名前を呼ばれるたび、この世界に居ることを赦されているような錯覚に陥る。

かれがおれに発する一言一言が重さを持ち、時におれを縛りつけ、癒し、喜ばせ、苦しめる。

ゼロだったおれの中にひとつひとつ宝物が増えていく。



「秀」

「んー?」

「帰ろ」

「…うん」



存在の輪郭をなぞるように、今日も愛しいその名前を呼ぶんだ。

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