地面は何処へ消えただろう。
ここはどこだ。
どこまでも深い海の底か、ほとんど宇宙に触れそうな程高い空の上か。
おれの周りを取り囲む深く澄んだこの色は、紛れもないきみの色。
もうずっと昔から愛してやまない、おれを惹き付けては離してくれないきみの色そのものだ。
上も下も分からなくて、どこか深いところへ沈んでゆく感覚がする。身体に力は入らなくて、ただ空気のような水圧のような何かが柔らかく身体を撫でては上へと…おれの足元の方へと流れてゆくんだ。
ここは…どこだろう。このままずっと力を抜いていれば、おれの身体は一体何処まで行くのだろう。
その先に、きみの姿はあるのだろうか。
『………ろ、いろ』
何だ、何か聞こえる気がする。
『……いろ、ひいろ』
地上ならともかく、水の中ってこんなにもクリアに音が聞こえるものだったかな。
ここがもし水中だったら、この声の主はとても遠くにいるんだろうか。
…やだよ。もっと近くに来て。どこにいるの。ねぇ。
目を閉じて、耳を澄ました。瞼を閉じても開いても、おれの視界を埋め尽くすのは同じ色。
静かで落ち着いていて、深海のように暗いのにどこか暖かな不思議な色。
『緋色』
ハッと目を見開く。
足元から日差しが降ってきた。
太陽らしきものが顔を出して、重力に抗わず沈んでいたおれの身体を徐々に押し上げていく。
歪んだ波間から身体を引き上げれば、夜の終わりを告げるぼんやりとした光がカーテンの隙間から差し込んでいた。
嗚呼、もう少しだけきみの色に包まれていたかったなぁ。
窓とは真逆の方向にある太陽にちらりと視線を向けた。この白い壁の向こうにいる光は、まだ眠っているんだろうな。
prev / next