mitei マホウツカイ | ナノ


▼ そうなりたかった。まだ、なれるなら。

「ひととちがう」って、どういうこと。

「ひと」って誰。社会のこと?親や友人のこと?それとも違うどこか別のひとのこと?

私はあなたとは違って、俺はお前とは違って、僕は君とは違う。

姿形も性格も、身体の性や心の性、腕や足の数や抱えているモノ、歩んできた道のりや周りの環境も、そうして培われてきた価値観も。或いは一番大事なものだって。

同じところを探す方がきっと、砂漠から一粒の特定の欠片を見つけるかのように難しい。

全く同じで平等を求むなら、全てが同じ姿形の量産型ロボットだ。

違う僕らは同じ種族として群れをなして集団となり、その中で一定の「普通」という水準を設けた。

それはある種の檻のようで、けれどある程度は必要なもので。

信号は守らなくちゃいけないとか、人様に迷惑をかけてはいけないとか。そういった集団生活を営む上での常識は、無いならばただの無法地帯になってしまう。

常識も普通もある程度は必要なもので、大きな見えない定規のようなもので。秩序やスムーズな生活を守るために無くてはならないものもある。だからこそ僕らはその中で息をし、その「普通」とやらを演じて生きる。

しかしてその定規にぴったり合う人は如何ほどいるというのだろうか。

大きな定規の中にも更に人それぞれの「当たり前」という目盛りがあって、それが多様性でもあり価値観でもある。

それが時には差別や偏見を生み、また新たな常識とやらを生み、「認め合おう」という繋がりも生まれてどこかで誰かと誰かが繋がってゆく。

大きな定規の中の、そんな「当たり前」に当て嵌まらなかった僕らはマイノリティで、時には守られるべきものとして擁護されるけれど時には異質なモノとして謂れの無い攻撃をされたり遠ざけられたりする。

所謂「当たり前」の中で当たり前の教育を受け、それが世間の普通なのだと思い込む。そのままで当たり前に人生を全うし当たり前に息をして当たり前に死んでいく。

そんな人が、果たして本当に存在するだろうか。
今こうして綴る僕も偏見や差別に満ちた思考でまみれていて、「当たり前」という見えもしない概念を蔑視している。もしかしたらそれすらも、自分で作り出した虚構ではないのかと。

けれど確かに僕らを測る目盛りはあって、それぞれの個性を持って集い、理解しようと足掻いては離れてまた集まってを繰り返す。

「分かる」ことは、不可能なのだ。

違っている以上、本当の本当にその人の事を真に理解し全てを「分かる」なんてことは出来ないのだ。

だからこそ僕らは言葉を紡ぐし、聞いて、話して、書いて、歌って、伝える術を、それを受け止める術を編み出した。

本当に分かることは出来なくても、寄り添って一緒に考えることは誰にだって出来る。違った色を持ってそれぞれの想いはその人が伝えようとすればきちんと形を持って、鋭い刃にも柔らかなクッションにも、冷たい雨や暖かな日差しにだってなれる。

「普通」は、苦しい。

だけど「普通」は、愛おしい。

全て考え方によるもの。見方によって全然違う。

だって僕らは魔法使いだ。
世界は君の思う通りに出来るのだ。

いや、そう言うと少し語弊がある。

世界は、そう、君の見たい通りに見ることが出来るんだ。

見たい通りに。というより、見ようとしているように。

気付いていてもいなくても、物事は必ず多面的なものだから。

赤いリンゴが本当に赤いリンゴかなんて、きっと誰にも証明出来はしない。

藤の花をそう呼ぶことが「呪い」ならば、使い方によってはそれは「魔法」にも出来る。誰かに翼を与えることも、泣いている誰かの隣に柔らかい風を吹き抜けさせることもきっと出来る。

「普通」の中で生きる僕らは魔法使いだ。

…そう、ありたいんだ。

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