mitei 青い望み | ナノ


▼ 気にしないでくれ、ただの独り言だから。

今日と明日の区切りをつける為に、毎晩布団に身を潜らせては目を閉じる。
意識を出来るだけ遠くに遠くに投げ飛ばして、もう返ってこなくていいとすら思う時もあるのに。

それでも不思議と日が昇る頃には返ってくるのだ。

それが当たり前で、幸せな事だと人は言う。
「明日が当たり前に来ない人も居るのだから」、と。

再び巡り来る朝に、似ているようで昨日とは全く違う朝に出逢えたところで今の僕は安堵も落胆もしない。
あぁ、明るい。それくらいの感想を抱くだけの余裕はあるようだけれど、「さぁ今日も頑張ろう」とか、「きっと大丈夫だ」なんて文字の羅列を脳裏に浮かばせることもなくただのっそりと重く湿った身体を持ち上げるのだ。
そうして当たり前ではない今日とやらを、一時間、一分、一秒を自分の意思とは関係無く進んでゆく。

日が暮れて太陽が大分深く沈んだ頃にまた、思考の海に身を投げ出すのだ。
くだらないことや楽しいことだけに脳の糖分を使えるならいい。
それともいっそ何も考えずに、パーソナルコンピューターのようにシャットダウンしてしまえばいい。

あぁ、ほらまただ。
使い古して固くなってきた布団の中で、眠ろうとすればするほど静寂が僕を取り囲んで思考を支配するのだ。

大小様々な空気の球が直ぐ横を通り過ぎて、コポコポと形を変えながら水面らしき光へと昇っていく。
僕はあそこへ行きたいのだろうか。

連れて行って、なんて言えない。
だって奴らは泡だもの。直ぐに消えてしまう。

深い青がより一層深く濃くなって、漆黒に近づいていった。僕の身体も意識も力を抜けばその黒い世界へとゆっくりゆっくり沈み込んでいく。
息は、出来るよ。呼吸がたまに荒くなって喉からは嗚咽が漏れ、目からは勝手に涙が溢れ出す日もあるけれど、今日は発作は出なさそうだなぁなんて。

深い深い青に包まれながら、抗うことも浮上することも放棄して今日も、僕はただ沈んでゆくのだ。
この深い青がまるで僕のようだと、誰かが言った。それが嬉しいとも感じた。

日が昇ればまた、水面に引き摺り出されるのだろうか。それにも抗うつもりもない。
僕だって、ずっと沈んでいたい訳じゃないんだ。

心地好い場所に居たい。あれやこれや、楽しいことで頭を悩ませていたい。朝が来て、「よし、今日も頑張ろう」なんて言葉を吐いてみたい。

…それが「僕」という厄介な人種にはどうも難しいらしいのだ。

どれだけ楽しいと思えた日にも僕は奴の影を見出してしまうし、どれだけ幸せで恵まれていてもやっぱり失うことを想像してしまう。
端的に言えば僕は、ネガティブだ。

ただそれだけのこと。たったひとつの材料で、僕はあらゆる世界を旅してあらゆる影を拾って来てしまう。
物事が表裏一体だというならば僕がそうして拾ってきたものの裏は光だろうか。光り輝いているものも、影に紛れて掴むことが出来ていたならいいのに。

それすら忘れてしまうほど、僕はまだまだ弱いのだ。強くなんてなりたくないけれど。

ねぇ、あなたは何処にいるの。

この繰り返す日々の中で、限られた時間の中で僕はあなたに出逢うことは出来るの。

スーツケースを持って、空港に行こうか。それとも電車に乗って、遠く誰も居ない砂浜で足を投げ出してみようか。
深い青を底から見上げるんじゃなくて、ただどこまでも続く浅いセルリアンブルーを水面の上から眺めてみるのもいいな。

あなたに恥じないように、過去の僕に叱責されないように、進んでいくことが…。いや、やっぱり何でもない。何でもないよ。

ただ、「嗚呼、やっぱり僕は間違っていた。世界はこんなにも鮮やかで美しいのだ」と。己の余りにも厭世的な思考回路を心から恥じる日が来ることを望んでいる。

ペイルブルーの空に、紺碧を纏う波音に、緩やかな風にただ包まれて手を繋いでいられる日が来ることを、望んでいるのだ。…多分、ね。

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