mitei 藤倉くんはちょっとおかしい5 | ナノ


▼ 9.バスケ部と部長とあのふたり

練習の合間も、バスケ部の部員達はあるひとつの話題で持ちきりだった。

「結局あのバスケ部員、全部自分達の自作自演でうちの学校は何の関係も無いって自白したらしいな」

「じゃあ第三者が見たっていううちと同じ制服の奴は?」

「別にそいつが殴るところを見た訳じゃあないからな。その証言は今回の件とは無関係だと判断されたんだと」

「じゃああいつら、結局自分達で部員殴ってその罪を澤に着せようとしてたってこと?ダセェにも程があるな」

「そもそも何で澤にそんな罪着せようとしたんだ?ボールぶつけてきたの向こうだろ」

「その報復に、澤がやり返してきたってことにしたかったんじゃねぇの。全く…スポーツマンシップの欠片も無ぇよな」

「まぁそう怒ってやるな。あいつらにも相応の罰は下りるだろうよ」

そう話すバスケ部の部長はいつもよりにこやかで、とても機嫌が良さそうだと部員全員が感じていた。確かに他校の不正が暴かれたこのニュースはバスケ部員全員にとって喜ばしいことだが、普段厳格で中々表情を綻ばせることの無い部長がここまで喜ぶなんて…。と、疑問に思う者が居てもおかしくはない。

そんな空気を察したのか、同じ三年の副部長が笑顔の理由を聞いてみた。

「新井部長さぁ、何でそんな嬉しそうなの?そりゃ、澤の潔白が証明されたことは俺らも嬉しいけどさ」

「ん?まぁ、ちょっとな」

緩やかに口角を上げたまま、部長はちらりと目線を外に投げる。

バスケ部が練習する体育館からちらりと見える渡り廊下。校舎へと続くその道にはちょうど、恐らく校内一有名なでこぼこコンビが並んで歩いているところだった。

ふっ、と自然に笑みが漏れるのはしょうがない。だって純粋に嬉しいのだ。

「自分がやった」と名乗り出たあの優秀な生徒は、例のバスケ部員達の自白により潔白が証明され、一週間以上経ってやっと再び学校へ来だした。

彼が少しの間だけ休学していた理由は当事者達と先生と、バスケ部員の一部の生徒しか知らない。変な噂や心配が広がらないよう、他の生徒達には体調不良ということで説明されていた。

第三者が見た背の高い生徒というのは恐らく彼で間違い無かっただろうが、部長も彼が部員を殴ったとは微塵も思っていなかった。
実を言うと新井部長自身も藤倉と同じ中学出身であり中学時代の荒れた彼を知らない訳では無かったが、それでも高校に入ってから変わってゆく彼をずっと見てきたのだ。それだけで十分信ずるに値する。

高校でも時折見かける彼…いや、彼らはとても楽しそうで、傍目から見ても仲が良いことなんて直ぐに分かる。

藤倉が澤を特別視していることなど周知の事実だが、澤もまた藤倉を大切に想っているであろうことも遠目からでも見て取れた。…まぁ澤本人が自覚しているかは別として。

藤倉はきっとそんな澤を守りたくて、澤もまた同じように思っているんだろうなぁと二人の後ろ姿を見ながら部長は思う。

「本当に、でこぼこだよなぁ」

そう、そんな二人が幸せそうにしているだけで、部長は純粋に嬉しいのだ。
藤倉の中学からの先輩として、澤の先輩として、そして…藤倉ファンクラブ会員番号52番(兼藤倉くんと澤くんの仲を応援する会、会員番号128番)として。

ちなみにこの事実はバスケ部員は同じ会員以外誰も知らない。しかも藤倉のファンクラブ会員としては、全校生徒が五百人弱の学校なのでこれでも結構な古参だったりする。

まぁそんな理由も有り、二人が今日も仲睦まじく歩いているのを見ながら新井部長は心から安堵したのだった。

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