▼ 声を。
俺の声を、殺して欲しい。
出してはいけない本音を、あなたを傷付ける刃を吐き出すこの喉を掻き切って、どうかこの声を奪って。
そうして二度とこの想いを俺の身体から出られなくして。
消そうとしたんだ。何度も何度も。
殺そうとしたんだ。数え切れない程。
それでも何度も蘇って、ひとたびその姿を、声を、風に揺れる髪の匂いを思い出す度に一瞬で俺を支配するんだ。
くそみたいだろ。
どうせ消えてくれないのなら、ずっと独りで抱え込むから。この檻に閉じ込めて欠片も出さないから。こんな醜い怪物をあなたの美しい瞳に映すのは余りにも罪深いことだから。
俺の声を、殺して欲しい。
今にも叫び出しそうになるこの声を溢れ出る涙と一緒に止めて、どうか聞かなかったことにして。
それでも心のどこかで、覚えていて。
…あはっ、嘘だよ。
優しいあなたは本気にしたでしょう。馬鹿だな、全部冗談だよ。
だから早く、全部忘れて。
「声を、聞かせて」
醜いかどうかは、忘れたいかどうかは僕が決めることだから。
僕の所為で苦しむお前もぞくぞくするけど、僕への気持ちを消すことだけは赦さない。否定することも赦さない。
だから早く、全部聞かせて。
おいで。
どうせ苦しむなら、この胸にも分けてくれ。
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