mitei 僕の知らないあなたへ。 | ナノ


▼ この小瓶を拾ってくれて、ありがとう。

逢ったこともないあなたへ、手紙を書こう。

どんな内容を書こうか。僕はペンを片手に思案する。あなたがどんなひとかなんてさっぱり検討もつかないけれど、ひとつだけ確かなことがある。まだ逢ったこともないあなただけれど、この手紙はきっと届くだろうということだ。

だから書くのだ。誰だか分からないけれど、この文は、僕の言葉達はきっとあなたの元へ届くから。

うーん…だとしたら下手なことは書けないな。どんなことをしたためよう。

嗚呼、そうだ。僕が思い描く「あなた」というひとについて、記していこうか。

まずは見た目。髪は茶色?黒色、それとも銀色?あるいは…赤や青やピンク色だって有り得る。それとも金髪だったりして。

瞳の色は、何色だろう。黒かな。でもよく見たら薄い茶色だったり、金色だったり、緑色だったりするかもな。
もしかすると、どこまでも広がる清々しいこの空のような青色かもしれないなぁ。

食べ物は何が好き?
甘いものや辛いもの、酸っぱいものとか、油っこいものとか。パリパリ、ふわふわ、とろとろしたもの。あっさりしたものや、濃い味付けのものとか。好みは人によってたくさんあるからなぁ。それとも、あなたは食にはそんなに関心を示さないひとかな。それはちょっと心配だから、例え疲れていてもちゃんと食べてね。

趣味は何だろう。
僕はね、映画を観ることが好きだよ。あなたは、映画はよく観たりするのかな。僕はエンドロールの最後まで観る派だけど、あなたは途中で出ていっちゃったりするのかな。どちらでもいいけれど、観てる人達の前を横切るときはちゃんと屈んでくれるひとならいいな。そんな風に、人に気を遣えるひとだったらいいな。

服はどんなのが好きかな。僕は、モノトーンや青が多いよ。殆ど黒だけど、たまに黄色いTシャツも着たりするよ。あれは、いつ買ったものだったかなぁ。
あなたはどんな服装が好き?それとも流行にもあまり興味は無い?
あなたがどんな服を着てても僕は構わないけれど、化粧をするとかしないとか、男っぽいとか女っぽいとかそんなことに縛られずに、ちゃんとあなたがあなたでいられる姿ならいいなぁ。

どんな装いをしてもあなたはあなたのままだし、他の誰でもない。

それは一種の呪いのようで、何者にも代えがたい祝福のようで。ネガティブな僕は前者の考えに囚われてしまうことが多いけれどどうせ一緒ならあなたには、どうかあなたには後者の考えでいて欲しい。

どんな装いでどんな振る舞いをしていても、あなたはあなただ。

この言葉はきっと鋭い刃にも、槍から身を守る堅い盾にもなるのだろう。

だから僕は祝福できるように、今修行の途中だよ。どうせ変わらない自分を、いつでも変えられる自分を好きになれるように。これが僕だよって、胸を張って誇れるように。…道はまだまだ遠いんだけどね。

少し話が逸れてしまったな。
そうだ、あなたは動物は好きかな。虫は苦手?それとも好き?季節ごとに変わる花の色や匂いに、あなたはどれだけ気づいているかな。

気づいていてもいなくても生活は特に変わらないかも知れないけれど、その気づく力はきっと何かの役に立つよ。

変化に気づける人は、周りに気を配れるひと。人の心の色の違いにもきっと気づけるひと。
あなたが心を痛めた分だけ、きっと誰かの痛みにも気づけるよ。だけどお願いだから、人の分まで背負い込まないでね。背負い切れない自分を、責めたりなんてしないでね。

さて、ここまで勝手に色々書いて「あなた」というひとについて妄想してきたけれど、これだけはきっと確かなこと。

あなたはとても、優しいひとだ。
これはきっと妄想じゃないよ。

例えば今、自分の時間を割いて僕の拙い手紙を読んでくれている。日々誰かのことを思いやって心を痛めたり、心配したり喜んだりしている。物語の中の僕らに、思いを馳せてくれる。

ねぇ、今どんな顔をしてこの手紙を読んでいますか。笑っていますか?泣いていますか?それとも、疲れて無表情かな。一体いつどこで、どんな気持ちでどんなことを感じて、この手紙を読んでくれていますか。

僕の言葉は、あなたを傷付けてはいませんか。あなたに無用な心配を掛けたり、負担を強いたりしてはいませんか。

僕はまだ、さっき言った道の途中にいるよ。本当にこの手紙を書いていいものか、今ですら迷っているよ。

僕の不器用な言葉の羅列があなたにとって少しでも意味のあるものになればなんて、そんな傲慢なことを考えてしまうよ。

それでも、手紙を書いてみたかったんだよ。

『僕の知らないあなたへ』

小瓶に詰めた紙切れを大海原に放つように、この手紙はきっとあなたに届くだろう。

この紙切れを拾ったあなたが、読んでくれたあなたが一体どんな表情をするのか僕からは見えないけれど、少しでも穏やかであればいいと。

そう、願っているよ。

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