mitei Pretender | ナノ


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「あのさ、」

「うん」

「俺、カレシが出来た…っぽい」

「え。えーと…おめでとう?」

「うん…ありが、とう?」

教室に戻って友人Aにそう話すと、彼は案外すんなりと受け入れてくれた。…良かった。

とは言え友人の頭上にはいくつかはてなマークが浮かんでいるようで、マスク越しでもきょとんとしている表情が分かる。
当然だ。張本人であるはずの俺も何が何だか未だによく理解出来ていないのだから。



事の発端は昼休み。ついさっきのことだ。
俺は今日もいつも通りに登校して、いつも通りに授業を受けて、さぁ昼休みだ!という時に突然隣のクラスの奴に呼び出された。

何事かと着いて行ってみれば、到着した先にはすらりと背の高い、俺でも知っている人物が立っていた。驚きを隠しもしない俺を見つけるとにこやかに微笑んだその男。

そいつの名前は、………えと、何だったかな。とにかく才色兼備で文武両道、学校内でも一番目立つグループの中心にいつもいる彼。S君とでも呼んでおこう。確かサ行の名字だった気がする。

見た目は言うまでもなくきっとこの学校で一番格好良い(と女子が話していた)S君は、俺と目が合うなりにこりと微笑んだ。ピアスは右耳に一つだけ開けており少し明るい髪色だが、チャラついた印象はあまり無く、寧ろその笑顔は眩しい程に爽やかだった。

俺を呼び出したのは、このS君だったのか。

状況確認の為に辺りを見渡してみるも俺を呼び出しに教室に来た奴はいつの間にか消えていて、静かな裏庭には俺と彼との二人だけになっていた。住む世界の違う彼と話せる話題なんて無いし、俺コミュ力高くないし…ぶっちゃけ気不味さが半端無い。そもそも、何で呼び出されたのかも分からない。

あ、そっか。間違えて別の人を連れて来ちゃったんだろうなと迷わず判断した生粋のモブ気質である俺は、彼に誤って俺なんかが来てしまったことを謝罪しようと口を開いた。

するとそれよりも早く、あのお綺麗な口から発せられたのは耳を疑うような言葉だった。

「実はずっとお前のことが好きだったんだ。オレと付き合ってくれないか」

「え、嘘でしょ」

そう、告白…されたのだ。しかもしっかり、俺の目を見て。

とは言えこんな状況なら誰だって嘘だと判断するだろう。だって可愛い女の子ならまだしも、俺だよ?友達も一人しかいなくて運動も勉強も顔面偏差値も平均値で、ましてやすごい性格が良い訳でもない、漫画で例えるなら主人公の後ろの後ろ辺りにいる顔さえ描かれないようなモブDみたいな、俺だよ?

いや、Dでも烏滸がましいくらいだな。
とにかく、そんな俺が少女漫画の主人公みたいな彼に告白される意味が全くもって分からない。食い気味に「嘘でしょ」と反論してからも、S君はじいっと俺の方を見ている。

窺うような彼の表情を見るに、どうやら今の台詞は俺に向かって言ったってことで間違いないんだろう…。余程視力が悪い訳でもないなら、この距離で相手を間違える筈ないもんなぁ。
そう、告白の相手を間違えている訳ではない…らしい。そう分かってから、俺は次の可能性を導き出した。もしかして、罰ゲームか何かだな?

ははぁん成る程。それならまだ納得がいくぞ。そっかそっか、ならおかしな事に巻き込まれたくないからさっさと断らないと。
何て事を思っていると、まるで俺の心を読んだかのように彼がまた口を開いた。

「言っとくけど、罰ゲームとかじゃないから。オレ、本気だから」

「…え、うそでしょ」

本日二回目の「嘘でしょ」である。だって他にどう形容したらいいの、この気持ち。

「こんな事いきなり言われて困るよな…。でもオレ、お前を諦められない」

「いやいや、そんな」

三回目の「嘘でしょ」を発する前に、またも愛を紡ぐ言葉が発せられる。

「好きだ。付き合って欲しい」

「うっ、でも、」

美形の目力ってすごい…。

「もしかして、他に好きな奴でもいるのか?」

「いやいないけど…」

「ならお試しでもいい。好きなんだ。頼む」

「えっ、ええ?」

かくして押されに押され、断り切ることも出来ずに俺は彼とお付き合いをする事になってしまったのである。何て王道展開。実は前にノートを拾ってあげたとかでその時に…みたいな?俺が忘れてるだけで何か彼が俺に惚れるきっかけが…?

いやいや馬鹿じゃねぇの。
え、無いよ。無い無い。有り得ないだろ。
こんな冴えない俺に何で告白なんか。しかもよりによって、クラスで…いや、もしかしたら学校で一番モテる人からなんて…。

そんな人が突然カレシになっただなんて、実感が湧かなくて当然だろう。やっぱり罰ゲームか何かで無理矢理告白させられたんだと思ったが何せ彼の気迫がスゴくて、俺はそれ以上追求出来なかった。

あの真っ直ぐな瞳を見て、もしかしてマジで本気なのかも…とか思ってしまったからだ。

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