本当にこの時間帯は中々に個性の強…以下略。
今度はどんな人でしょうか。興味ないとか言わないで聞いて欲しい。
日付が変わってちょっとした頃、店に入ってきたかと思うと、商品を買うでもなく真っ直ぐカウンターに来て何故か俺をめちゃくちゃ怖い形相で睨んでくる美人さん。
スタイルもよくてウェーブがかった髪は艶があり、ぱっちり二重の目と、ほんのり赤いリップが塗られた唇が色っぽい。何かいい匂いもするし、めちゃくちゃ美人だなこの人。
…こんな顔してなければ。
俺、この人に何かしたっけ。
もしかしたら何回かこの店に来てたような気はするけど、よく覚えていないな。
自分で言うけど接客は丁寧にしてるつもりだし、今までこれと言って大きな問題やトラブルも起こしたことはない。
それとも何か些細なことがこの人の気に触ったのかもしれない。
いずれにせよ、こんな風にガンを飛ばされる理由が分からないのでお手上げである。
「あのー、お客様?何かご用件でも…?」
俺がそう聞いても無視し、眉間のシワをさらに深くして睨みつけてくる。
「こんなののどこがいいの?!ホンット!意味分かんない!」
しばらくの無言の後、謎の美女はそう吐き捨てるとフンッと鼻を鳴らして出口に向かった。すると、
どんっと何かにぶつかったような音が。
美女が勢いよく出ていこうとしたところ、同時に入ろうとしてきた誰かにぶつかってしまったみたいだ。
あぁ、遂に関係のないお客さんにまで迷惑をかけてしまった。何か俺まで申し訳ない気分。俺何にもしてないけど。
「大丈夫ですか」
無表情で淡々と声をかける男性。
ぶつかられた人は…あ、アイスだ。いつもはもっと遅いのにこの時間に来るなんて珍しいな。
顔を上げた美女は一瞬目を見開きカッと顔を赤くさせたかと思うと、何も言わず足早に店を出ていった。
彼女が店を出ると外で待たせていたのかスーツ姿の男性が近寄っていった。…デート中だったのかな。
あれ、グレースーツっぽい。あの二人知り合いだったのか。もしかして同じ会社だったりして。
…というか、結局何だったんだあの人は。
酔っ払ってたのかな。そうは見えなかったけど…それとも、八つ当たりとか?仕事で何か嫌なことでもあったんだろうか。
グレースーツにしろさっきの美女にしろ、みんな働きすぎなんじゃないのか。だからストレス溜まっちゃってるんじゃないの。
アイスを見習って欲しい。学生なのか社会人なのか知らないが、彼はいつも明るく礼儀正しいぞ。ストレスとか感じさせないし。そう、彼はいつも明るく礼儀正し…あれ?でも今みたいな態度は初めて見たかも。
「やあ」
いつも通りアイスを手にとって俺に話しかける彼は、やっぱり爽やかな明るい笑顔だった。
…それにしても最近特によく来るようになったなぁ。
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