本当にこの時間帯は中々個性の強めな人が多い(当社比)。
今度はどんな人だって?
レジを打っている俺を、目の前で肩肘ついて熱っぽい瞳で凝視してくるサラリーマンだ。スーツ着てるから多分そうだろう。
このグレーのスーツを身に纏った一見紳士的な男性は、恐らくこの辺りの会社で働いているのだろう。大体時計の針が天井を指す頃にこのコンビニに現れ、栄養ドリンクやら晩飯であろう弁当やらを買っていく。
見かけるのは俺のシフトの関係もあって週に二回か三回くらいだが、それでもほぼ毎日来てるみたいだ。いつもこんな時間まで残業してるんだとしたらすげーブラックだな…。
歳は30代前半くらいだろうか。きりっとした男前って感じで、全体的に細身なのに二の腕の当たりが太いから鍛えられている気がする。ボクシングとかやってんのかな。
こんな不摂生な生活してたらメタボにでもなりそうなもんだけどなぁ、だから鍛えてんのかも。
「良かったぁー、今日は会えたね。一昨日も来たけどシフト入ってなかったみたいだから寂しかったよ!」
「はあ…」
何故だかこのグレースーツの紳士(仮)は、レジの担当が俺だと必ずこのように口説いてくるのだ。これは他のバイトにも確認した確かな情報で、こんなに絡まれるのはどうやら俺だけらしい。からかい甲斐があるのかな。意味が分からない。
こんなときに限って後ろも列がつかえてきてるし、いい加減にしてほしい…。
「いっつも頑張ってるよね!君に会うと元気になるよ。出来ればもっと会いたいんだけど、そろそろ連絡先とか教えてくれない?」
「あの、お客様、申し訳ありませんが…!」
もうはっきり注意してやろうとしたその時、グレースーツ(もうそう呼ぶことにする)の後ろからスッと背の高い外国人が出てきて、グレースーツに向かって何やら英語で話し始めた。
は、早い…何言ってんだか全っ然分からない。
俺だって一応英語は得意科目だったんだが、ネイティブの会話って本当聞き取れないな…。一体何だったんだ今までの英語教育は!
というかこの外国人…よく見ると、いやよく見なくてもアイスだ!当たり棒の人だ!
この人英語も喋れるんだな。かっけぇ。何かずるい。
突然英語で話しかけられたグレースーツも一体何を言われているのか理解できないらしく、おどおどと慌てた視線で俺に助けを求めてきた。やめてくれ。俺も分からない。
でもその人日本語話せますよー、と内心で呟く。
遂にいたたまれなくなったのか俺がおつりを渡すとグレースーツはそそくさと出ていった。
とにかく解放された…良かった。
アイスはもしかして俺を助けてくれたのかな?もうアイスって呼ぶことにする。何かルイスって名前あるじゃん、それっぽいし。
「あの、ありがとうございました」
と俺が礼を述べると、
「全然?俺もうっとおしいと思ってたし」
と、明るく返される。
やっぱり日本語喋れるんだよなぁ。
「変なやつも多いから気を付けてね。じゃ、また」
と俺に笑いかけ、アイスは爽やかに去っていった。
あれ?今日はアイス買わないんだ?というか、何も買っていかなかったなぁ。
何しに来たんだろう。
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