「やっぱりこれは運命なんだよっ!」
「はぁ。…え?」
レジを打っていると急に謎の外国人に両手を握られてそう言われ困惑している俺、21歳専門学生。
コンビニの夜勤帯。通常の時間よりも時給はいいが、深夜だからなのかちょっと個性の強い客が多い(俺調べ)。
そして今俺の前には、両手をぎゅっと握り嬉しそうにこちらを凝視してくる謎の美形外国人。
外国人って言ったけどどっちかというとハーフっぽい。髪は黒っぽい灰色で、恐らく染めているのだろう。モデルみたいに背は高い上に顔立ちもはっきりしているが、くりっとした目元は愛らしくちょっと幼い感じもする。あと日本語もペラペラだし。
…そういえば日曜の朝にやってる某アニメで「ハーフじゃなくてダブル」(うろ覚え)っていう表現を聞いたんだけど、俺あの言い方好きだな。
まぁたまたまSNSで流れてきたの見ただけなんだけど。
そのハーフじゃなくてダブルの瞳は、黒っぽいようで薄くブルーが入っていた。
まるで深い夜の色だ。暗い夜空に星を閉じ込めたようなその不思議な輝きは、ずっと見ていると本当に吸い込まれそうになる。間近で見るとすごい…。
俺が見惚れていると、彼はコンビニのカウンターなんか軽く乗り越えてきそうな勢いで、俺に話しかけてきた。もちろん手は握ったままだ。レジが打てない。
「また当たったんだ!見てこれ!」
謎の美形が嬉しそうに見せてきたのは、当たりと書かれたアイスの棒。片手で俺の両手は拘束したままだ。実に器用だが、そろそろ離してくれてもよくないだろうか。
「えと、おめでとうございます…?」
おずおずと口にすると、興奮したままのハーフじゃなくてダブルの夜色の目のアイスの人が続ける。
ダメだ、情報が多すぎてこいつの呼び方が統一しない。もうアイスの人でいいや。
「ありがとう!きみのおかげだよ!これでもう6本目…やっぱりきみは幸運の女神だ!」
ツッコミどころが多いぞ。落ち着け、よし。ひとつひとついこう。
まず何故俺のおかげなのか。俺は別に当たり付きアイスばかり陳列しているわけではないし、当たりかどうかも包装を開けるまで誰にも分からない。よって当たったのは偶然です。ハイ、ひとつQED。
あと6本目って、どんだけアイス食ってんだこいつ…当たりが出たらもう一本だから、単純計算で12本?当たってない分も含めたら多分もっとだろうな。
まぁ好きな人はそれくらい食うかもしんないけど、何せスパンが短すぎる。
このアイスの人最近毎週来てたもんなぁ。
あと一応確認しておくが、俺の性別は男だ。そして人間だ。女神ではない。
例えだってのは分かるけども。
「きみがいるときだけだよ。この当たりが出るのは」
…他の日もやっぱり買ってたのか。お腹壊すよ。あとそろそろ手を離して欲しい。
今はお客さんはそんなにいないけど、手汗かいてきちゃったし…。
アイスの人はより一層手の力を強めると真剣な眼差しで言った。
「また来週、来ても良いだろうか」
…勝手に来ればいいんじゃないだろうか。
しかしそんな真っ直ぐな眼差しで言われては、無下に出来ない。
「お、お待ちしております…」
俺がそう言うと彼は満面の笑みで頷き、爽やかに去っていった。あぁ、折角当たってたのにもう一本渡すの忘れてた…。
そんなに当たりが嬉しかったのか。
やっぱり深夜は中々個性的な人が多いな。
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