昼休み。またいつもの校舎裏で、いつものベンチに僕らは腰掛けていた。
「桃谷くん、今朝はその、」
「言っておくが、別に北村を助けた訳じゃない。あの件は俺が悪かったとはいえ、流石に北村のやり方には賛同しかねる」
「じゃあ何で」
「あのままでは茅ヶ崎、お前、自分のことも全て話す気でいただろう?」
「…うん。だってそうでもしないと緋色が」
「その北村が俺をこんなにしてまで守ろうとしたものを、お前自身が壊してしまって本当に良いのか?」
「あ…」
「いや、悪い。俺が言えた義理じゃないな…。あの事は全部俺が悪いんだ。茅ヶ崎、本当は俺なんてお前と話す権利も無いかも知れないが、」
「そんなこと…!」
「これだけは言わせて欲しい。本当に、悪かった。お前が嫌がる事はもう決してしないと誓う。お前のことも、勿論口外しない。…すまなかった」
「そんなに謝らないで、もう本当に大丈夫だから!それより、僕を…緋色を守ってくれて、ありがとう」
「別に頼んでないけど」
「こら緋色っ!」
校舎裏に居るのは僕と桃谷くん、そして緋色。ベンチに座る僕と桃谷くんの背後には、監視するかのようにずっと緋色が腕組みをして突っ立っていた。というか、三ヶ月先まで埋まってるとかいうお昼の約束はどうしたんだ緋色…。
「いいんだ。今朝のあれは俺の自己満足だからな」
「それでも助かったよ。あ、それより怪我は?!肋骨折れたって…入院って聞いたけど学校来て大丈夫なのっ?!」
「まだ心配してくれるのか…やはりお前は優しいな。だけどそれなら大丈夫だ。多少ヒビは入っていると言われたが、入院する程でもない」
「でもっ、」
治療代とか払わなくていいのかな?桃谷くんは大丈夫だって言うけど流石に何もしないっていうのは…。
「問題無い。北村の言った通りその辺の奴とは鍛え方が違うからな。…それより、茅ヶ崎。俺はまだお前に言わなければならないことがある」
「え、何…?」
「単刀直入に言う。俺はお前に恋愛感情を抱いている」
「………へ?」
後ろでガサッと、草を踏みしめる音がした。
「お前が好きだ。友愛じゃない。俺はお前のことを、…そういう意味で好いているんだ。自覚したのはほんの最近だが…。だから、あの時は抑え切れずあんなことをしてしまった。自分でも情けないと思っている」
「本当にね」
「え、ちょっと待ってちょっと待って。え、え?れんあい、かんじょう?誰が?」
「俺が」
「聞き間違いじゃなければ、ぼ、ぼぼく、に…?」
「ああ。茅ヶ崎にだ」
「え、なん、で…?え?あ、ていうか僕一応男だよ…?」
「関係無い。俺はお前の、真っ直ぐなところに惹かれたみたいだ」
「まっ、すぐ…」
そう言って貫くように僕を見つめる黒い瞳は、嘘をついているようには思えなかった。
「もちろん、お前に何か求めたりはしない。ただ俺があんな事をしてしまった明確な理由を、話しておこうと思っただけだ」
「桃谷くん…」
太陽が翳る。
伸びっ放しの草を揺らした風は、僕らの間を少し強く吹き抜けていった。
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