「きみは絵の具だね」
「はぁ?」
「絵の具なんだよ」
「馬鹿なこと言ってないで早く原稿仕上げてくださいよセンセイ」
「本当のことなんだよ。一応褒め言葉なんだけどな」
「流石センセイの表現は奥が深いので俺には分かりかねます」
「別に思ったことを言っただけ。こんな言葉なら誰だって思いつくし面白味が無い。だけど何故か急に言いたくなってしまったんだ」
「そうですか」
「けれど塗り方はボク次第。お手本通りの美しい絵だって描けるし、場合によっては有り得ない色を混ぜて思いもかけないものが描ける」
「話すより手を動かしてくださいよ」
「相変わらず塩対応だなぁ。きみは塩辛い絵の具だ」
「舐めたことあるんですか、絵の具」
「無いけど」
「俺も無いです」
「なぁんだ。あるのなら感想が聞きたかったのに」
「あるわけないでしょ」
「ねぇねぇ」
「はぁ...今度は何です?」
「ありがとうね」
「は?」
「今までは別に無くてもいいやって思ってたんだけど、やっぱり色があった方が世界はずっとずっと綺麗だから」
「でも塗り方は、」
「ボク次第。だね」
「じゃあ精々美しく塗れるように頑張ってくださいね」
「きみが協力してくれるのならね」
「前向きに善処しますよ」
「それ信じられない奴ー。ははっ」
「笑ってないで早くしてください!このままじゃあ今日も泊り込みだ...」
「泊まれば良い。寧ろずぅっとここに居てくれたら良いよ」
「顔と文才だけが取り柄のぐうたらで意味分からないひとの世話なんて御免被ります」
「ひどーい。おかげで筆が進まない」
「...アンタわざとでしょう。はぁ」
「そんなにここに泊まるのがやなの?」
「別に嫌って訳じゃあ…ないんですけど…」
「けど?」
「あー…夢を、視るんです」
「どんな?怖い夢?嫌な夢なの?」
「怖くは、ないですけど…秘密です。もう雑談はいいので早く原稿に戻ってくださいってば」
「話題を変えようとしてもダメだよ。どんな夢なの」
「だから、………あぁもう!とにかく変な夢ですっ!」
「赤くなったってことは、恥ずかしい夢なんだね」
「べ、つに…そんなんじゃ…」
「きみは眠りが深いからなぁ…。他の人の前で寝たりしないでよね」
prev / next