mitei カラス | ナノ


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カタッと隣で硬い音がしたので隣を見やると、カラスがいた。ベンチの背凭れの上にとまっている。カラスって近くで見ると割とでかいし、人間にこんなに近づくなんて珍しいなんて思いながらも俺はただ一人を思い出していた。

あの時は混乱やら恐怖やら恥ずかしさやらでそれどころじゃなかったが、あの後真剣に思い返してみた。

俺が、カラスを、助けた。
何かそんなことあったような気がするな…。

そうだ、確かあれは俺が小学校の低学年くらいだった時。
学校の帰り道、道路の真ん中で蹲る真っ黒な塊を見つけた。始めはゴミが捨てられてるんだと思ったけどよく見ると艶々してて、俺は何故か目が離せなかった。
近くで見るとそれが大きな黒い鳥で、どうやら怪我をしてて動けないらしいことが分かった。そのままにしておけなくて、タオルにくるんで家に連れ帰ると母親にとても叱られたんだ。「野鳥はどんな病気を持っているか分からない。動物病院でも見てもらえないから今すぐ捨ててきなさい」って、確かそんな感じのことを言われた。
犬とか猫でも同じ風に言われたのかな、なんてその後思ったけど幼い俺にはよく分からない。幼くなくなった俺でもよく分からないのだから。

その後どうしたらいいか分からなくて、とりあえず学校に戻る道の途中で神社を見つけたんだ。いつもは気にもしていなかったけどとりあえずその時は神様にも縋る思いで神社に入った。

「かみさまお願いします。このこを、たすけてください」

少ししかないお小遣いを賽銭箱に入れ、パンパンと小さな手を叩きいるのかも分からない神様に願った。
そこから誰にも見つからないように箱を用意して、タオルを敷いて、自分なりに調べて怪我をしているらしい足に包帯を巻いてやったりした。そして学校へ行く途中や帰りなんかに様子を神社に見に立ち寄った。

そんなことが数日続いたある日、学校帰りに神社に寄っていつも通り箱の中を覗き込むと黒い姿は無かった。猫にでも襲われてしまったのではないかと心配になり、それから周りを探したが見つからなかった。

治ったんだ。きっと飛び立ったのだと自分に言い聞かせた。
それなら良い。良かった。本当に、良かったんだ。

幼いながらに自分がしたことが正しかったのかどうか分からなくて、不安で仕方なかったけれどそれもすぐに忘れていった。

ちなみにいくら可哀想だと思ってもどんな病気を持っているか分からないし、自然の摂理でもあるのだから今後そういうことがあっても無闇に手を出してはいけないと、俺の行動を見抜いていた母親にはその後めちゃくちゃ叱られた。

「あの時の…まさか、な」










「なのに、なのに何でいないんだよっ?!自分だけ好きなだけぶちまけて人のこと好きなように弄びやがった癖にっ…何で俺には何も言わせてくんないんだよ…」

「もう、忘れられるもんなら忘れたい。忘れたい、のに…」

「心ん中、あいつでいっぱいなんだ…一生消えてくれる気がしないんだ…」

「消えませんよ。アンタがおれを望んでくれる限り」

「…っおまえ!」

「ふふっ。香坂さん…」

「それ、プロポーズってことでいいですか。いいですよね」










「カラスってね、一生番変えないんですよ。ずっと一緒です。ずぅっとね」

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