mitei てがみ | ナノ


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きみにたったひとつを伝えたくて
こんなに手紙を書いたんだ

もどかしくて破り捨てたものもあるけれど
それでも筆は止まらなくて

もうおれひとりじゃどうしようもない

ただひとつ、掬い上げてくれたなら
たった一言だけでも読んでくれたなら

この紙くずたちは報われるだろうか

いいや やっぱり読まなくてもいいよ

限りあるきみの時間を切り取って
この想いを伝えたいだなんて

ゆるされない そうわかっていても

それでも一言だけでも、と願うおれは
それでも書くのを止められないおれは

やっぱり身勝手でどうしようもない



ねえ、







真っ暗な世界に、こつりと響く足音。

空には半月。
薄く雲がかかる。
おれの世界に、朝は来ない。

こつりこつり、と近づく足音。
足元に散らばる、無惨な紙くず。

部屋の真ん中で蹲るおれに、声がかかる。

「これ全部、きみが書いたの?」

彼は言葉の海からひとつ拾い上げて、静かに眺めた。

あぁ読まないで。触らないで。
そんな醜くて歪んだもの、きみは知らなくていい。

気づかなくて良かったのに。
気づいてくれなくても良かったのに。

拾い上げた言葉をゆっくりゆっくり飲み込んで、穏やかに笑った彼は言う。

「僕も、きみに言いたいことがあるんだ」



ねえ、すきだよ



おれの世界に朝は来ない。

けれど、月が満ちる。

淡い満月の光が窓から差し込み、おれと彼を、
おれときみだけの世界を照らし出した。

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