「で、結局ネコとタチて何なの。動物?」
「おまっ、それ!まだ聞くかっ!」
「だって気になるじゃん」
嘘。ホントはさっきネットで調べたから知ってるんだけど、こいつの反応が面白いからどうしてもからかいたくなってしまう。
二人きりの部屋で、逃げ場の無い空間で叶太朗に詰め寄って聞いてみた。俺が近付く度に耳がほんのり染まりゆく様が面白い。
「だからぁ、その、あれだよ…それはあの、男同士がアレする時の、」
「アレって?」
「だあぁぁ察しろよ!というか自分で調べろよっ、もう!」
「えぇ、知ってるんなら教えてくれたっていーのに」
ふっと笑って少し顔を近付けると、叶太朗が目を見開いた。二人で腰掛けているベッドがぎしりと音を立てて、彼が少しだけ後退りしてしまう。これは…バレちゃったかな。
「お前もしかして…」
「教えてくれんじゃないの?…実践で」
「おおお俺らにはまだ早いっ!!」
「えー」
また真っ赤になってる。…かわいい。
ふふっと自然に溢れる笑みをそのままに、すぐ隣に座る柔らかい髪に手を伸ばした。
触れた瞬間ピクリと肩を跳ねさせた叶太朗はそれでも逃げることはしなくて、俺のしたいままにさせてくれている。
本当はもっと抵抗されるかと思ってたけど、優しいなぁこいつ。ってかやっぱり柔らかいしふわふわしてて、何か犬でも撫でてるみたいだな。
ゆるゆると手先で髪の束を弄んでいると、やがて叶太朗がゆっくり口を開いて呟いた。
「あの、さ。言っとくけど…」
「んー?」
「べ、別にその…嫌…とかじゃない、から…」
「ん?」
何のことだろうと暫し考えて、それが冒頭の会話のことだと気が付く。髪に触るのに夢中でちょっと忘れてた。
「お前ネガティブだからっ!一応言っとかないと、って思っ…て…」
「………ふふっ」
「な、笑うなよぉ…」
「いや、ゴメンゴメン。大丈夫だよ、ゆっくりで」
ゆっくり行こう。俺達のペースで。
何てったって、やっと歩幅が揃ったとこなんだから。
髪を上げて額にちゅっとキスを落とすと、彼はただでさえ大きな目を更に見開き、頬を真っ赤に染めて俺を見た。覗いた瞳は潤んでいて、涙のせいかいつもよりずっときらきらして見える。
あぁもう。
ここ数日でいくつも新しい表情を見ることが出来てそれだけでも充分幸せなはずなのに、どこまでも底を知らない俺の欲がもっともっとと顔を出してしまって困るなぁ。
「…なぁ望。俺も、もっかいちゃんと言っときたい。…やられっぱなしはやだし」
「なぁに」
「好きだよ。すごく、伝えきれないくらい。…大好きだ」
「うん。俺も」
ゆっくりでいいなんて格好付けたけど、本当は今すぐ押し倒してしまいたいくらい。何て思ったのは、もう少し黙っておこう。
ただ抱き締めるのは、赦して欲しい。
腕の中に収まった体温は俺のより少し高くて、ただこうしているだけで、彼の体格も性格も髪質も何もかも俺のとは違うことを改めて思い知る。
いくらひとつになりたいと願ったところで俺達はどうしても別々で、どれだけ伝えたいと思っても考え方は異なって、そのせいですれ違ったり喧嘩したりもする。
だけどふたつだったからこそ出逢うことが出来て、惹かれ合うことが出来て、考え方が違うからこそ想いを伝えることの怖さも辛さも大切さも知ることが出来た。
憧れも嫉妬も、好きも嫌いも。一人では生まれなかった感情を作り出して分け合って、たまに抱え込んだりして。
伝えたい。伝えられない。
そんなことを繰り返しながら、また恐怖や勇気なんて新しいモノが出来上がって誰かの物語に影響したりする。
そうやって、繋がっていくんだ。
その中心が、俺にとっては彼なんだ。
彼の中心も、俺ならいいな。
「きょう…すき」
「………うん。うん」
泣いてるのかな。
背中にそっと回された腕が少し震えているけれど、これ以上無いほどに近付け合った二つ分の速い鼓動が、その温かさが、ただただ心地好いのだ。
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