▼ 5_勝負しよう
…足りない。かわいい。愛おしい。もっと泣かせたい。もっとめちゃくちゃにしたい。理性なんて飛ばして、俺の名前だけを呼ばせたい。あぁ、いっそ壊したい。でも、壊したくない。手放したくない。嫌な思いは、させたくない。
…なのに、もっともっと欲しくなる。
馬鹿だなぁ。
手放したくない、なんて。
そもそも彼は俺のものでも何でもないのに。
悔しいことに、彼との勝負は惨敗続き。
出会った時からずぅっと、俺の方が掻き乱されてばっかりだ。
俺と「おれ」自身との勝負は五分五分。
次から次へと出てくる醜い欲に、勝ったり負けたりを繰り返している。
「今度は、口に出して欲しいなぁ…」
こんなにも我儘で強欲なおれを、馬鹿なきみは一体どこまで赦してくれるだろうか。
ねぇ、勝負をしよう。
終わることのない勝負を。
審判の居ない、一生決着のつかない勝負を。
俺は醜い「おれ」と戦いながらきみを追い続けるから、いつかきっと振り向いて。
「おれ」に勝った俺に、きみももっと掻き乱されて。
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