mitei 勝負しよう | ナノ


▼ 4

無機質な部屋に響くのは、ぐちゅぐちゅと卑猥な水音。白いシーツの擦れる音と、本当に俺のものか疑いたくなる程の甘ったるい矯声。それから藤倉の、やけに色っぽい息継ぎの音。

初めて他人に触られたそこは、萎えるどころかどんどん熱を帯び始めていた。

「あ、やぁっ、もっとゆ、っくりぃ…!んぅっ、はっ、」

「ん、んっ、ふふ、かわい…」

そう呟きながらも藤倉は俺のものを握ったまま扱くスピードを緩めない。何度も何度も塞がれる唇からは、離される度に甘くすがるような声が漏れるのみだった。

咥内すらも藤倉の良いように蹂躙されて、下半身も俺のより少し大きな手に扱かれて…。俺はただ目の前に覆い被さるこいつの服にぎゅうっとしがみついて、全身から与えられる快楽の波に耐えるしかなかった。

「も、いい、からっ、あっ、はやく…おわらせ、んむぅっ?!」

「んぅ、はぁ、ふふ…すごいな…先走りでこんなに、んっ、ローション、要らなかったね?」

「んぅっ、…は、ろー、しょん?」

頭が回らない。酸素が足りずただぼうっとする頭で藤倉の言葉を反芻してみたが、やはり意味は分からなかった。

「ふふ、ね、きもちい?」

「や、もう、んっ!んんっ、はあ、は、」

「ね、イく時はイくって、ちゃんと言ってね?」

「んぅあ、も、む…りっ」

混ざり合って溢れた唾液がだらしなく俺の口端から流れる。藤倉はもったいないと言わんばかりにそれすらもべろりと舐めとって、そのまま涙や汗でぐちゃぐちゃの俺の顔を犬みたいに舐め回した。左手では胸の突起をくりくりと弄りながらも右手の動きは止められないまま、涙の一粒、汗の一滴すらも彼に吸い込まれてしまう。

触れられているところ全てが熱くて溶けそうだ。その熱は段々と一ヶ所に集まって、もう限界を主張し始めていた。

「あっ、や、も、出る、からぁっ!んむぅ、ふぅ…あ」

「ん、うん。それで?なんて言うんだっけ?」

「おねが、手はな、して…っ!ひっ!」

「…ねぇ、言って」

必死の懇願も虚しく、もう殆ど限界を迎えそうな先端を親指でぐりぐり弄りながら耳元で藤倉が囁く。朦朧とする思考ではもう彼の言葉が全て呪文のようで、それに従って早く楽になることしか考えられなかった。

「あ、はっ、イ…くっ、もぉイく、からぁ…」

「ん…いいこ」

「んぅ、…っ!?あ、ひああぁっ!!」

ちゅっと可愛らしいリップ音を鳴らして頬にキスを落とされ、右手のスピードは一段と速くなった。耳元で小さく、本当に小さく名を呼ばれる。瞬間、全身にビリビリと今までで一番強い電流が走って、俺はどろりとした欲の塊を藤倉の手の中に吐き出してしまった。

「よしよし。いっぱい出せたね?」

「あ、はぁ、はっ、…はぁ」

頭をゆるゆると撫でながら、幼い子でも褒めるような穏やかな声で彼が囁く。呼吸を整え脱力したまま身を任せていると、やがて項にすっと手が差し込まれてくいっと後頭部を固定され、何度目かの深い深い口付けが与えられた。

「ん、さわくん…」

「あ、んぅっ…ん、」

鼻から漏れる息すらも甘い。
緩く開いたままの口に俺以外の温度が遠慮無く入ってきて、優しく俺の舌と絡まり合っては離れていった。長く伸びて、ぷつりと切れる銀糸。ただもったいないな、という言葉が頭を過ったけれど、それがどういう意味なのか今は何も考えられない。

ただ彼から与えられる全てが、気持ち良い。

「………」

「ふじく…ら…?あ、ごめん、手…」

顔を離すと、藤倉は無表情で固まっていた。彼は何も言わずにただじっと、俺が汚してしまった自分の右手を凝視している。

自分から言い出してきたこととはいえ、やっぱり嫌だったのかな。

汚いって…思われたのかな。

また溢れ出てきた涙で滲んだ視界では、彼がどんな表情をしているのか分からない。視界を晴らす為にぱちりとゆっくり瞬きをすると、眦をつうっと生温かい滴が流れていった。

そうしてクリアになった視界に映ったのは、やけに色っぽく口端の白を舐め取る赤い舌と、興奮で潤んだ瞳に少し紅潮した艶やかな頬。そして見間違いでなければごくりと確かに上下した、藤倉の喉仏。

「ん、さわくん大丈夫?」

「う、ん…。ってかお前、もしかして今」

「疲れたでしょう?ティッシュここ置いとくね。ゴミ箱はここ。あと濡れタオルと飲み物取ってくるから、ちょっと待っててね」

「え、あ…」

そうして藤倉は自身の右手にまだべっとりと残る俺の真っ白な欲望を、拭き取ることもせずに部屋から出ていった。

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