mitei 勝負しよう | ナノ


▼ 3

「…ねぇ澤くん、勝負しようか」

「しょう、ぶ?っな、なにいって、」

「ね、本当に、くすぐったいだけ?」

「…っ!だから、さっきからそう言って、んっ!や、」

「そっかぁ。じゃあ澤くんを気持ち良くさせられたら、俺の勝ちね」

「は?!何だそれ、っん…も、やめ…あっ」

「おっかしいなぁ…。まだ気持ち良くないんだよね?なのになんでそんな声漏れてるの?」

「こんの…っ!んっ、へっ、んたいっ!」

何だ勝負って…っ!この状況で何言ってんだ!

全く何がそんなに楽しいのか、藤倉は今度は両手で真っ平らなだけの俺の胸を撫で擦っては親指でくねくねと突起を弄んでくる。柔らかく撫で上げたり時には強く摘まんだり、くにっと押してみたり。
擽ったかっただけのはずのその刺激がどんどん加速して、触られた箇所から熱を持って全身熱くなってくる。おかしい。気持ち良い筈なんて無い、のに…。

「んんぅ…っ」

「声、我慢しなくていいんだよ?」

俺が顔を真っ赤にして身を捩っていると、不意に胸に熱い吐息がかかった。ぎゅっと閉じていた目を開けると、今にも唇が肌に触れてしまいそうな程の距離に見慣れた端正な顔が下りてきているのが見えた。

吐息が擽ったい。
弱い刺激を与えられ続けたそこはそんな空気の振動にすら敏感で、俺はまた「あっ、」とあられもない声を漏らしてしまった。

俺のそんな様子を見て一層目を細めた藤倉の次の一言は、ただでさえ身動きの取れない俺の身体を一層強張らせた。

「ね、舐めていい?」

「………は?」

「ここ。舐めていい?」

「…はぁ?!いいわけな、んっ、」

ここ、と言いながらまたくねくねと突起を弄る変態、藤倉。普段中々見ることの出来ない上目遣いでのお願いに、ファンクラブの皆さんは一体どんな反応をするだろう。「可愛い」とか言って写真を撮りまくるんだろうか。

…しかしこいつの要求は全く可愛いもんじゃなく、俺は一瞬思考を停止した。こいつ今、何て言った…?

「舐めた方がきもちーよ?多分」

「………え、ちょっと待ってちょっと待っておかしくない?舐め、え?幻聴だよな、そうだよな?」

「舐めたい。…おねがい」

「くっそ、幻聴じゃないのか…?!言い直しても無理だろ駄目だよ流石に!意味分かんねーにも程があるぞ?!」

「…わかった」

「………え、あ、そうか。分かってくれたか」

流石の藤倉でもここまで言えば分かってくれたか…。何て安堵したのもほんの一瞬。上目遣いで俺を見上げたまま彼はちろっと赤い舌を覗かせ、言った。

「じゃあ一回舐めてみて、気持ち良くなかったらやめるね?」

「…は?はあぁっ?!お前俺の話聞いて、ひぁあっ!」

初めから俺に拒否権なんて無かったんだ。人が身動き出来ないのを良いことに、藤倉は俺の胸の突起を口に含んだ。と同時に今度は舌でくりくりと、指でしていたように乳首を執拗に愛撫しだした。そうして左手でも器用に、さっきまでの動きを再開していたのだった。

熱い。さっきより断然ぞわぞわする。
指で触られるのとはまた違って、熱くて湿ったこいつの口の中で触れられるとそこだけに神経が集まったみたいに敏感に反応してしまう。

情けない声を押し殺そうと口をぎゅっと固く結ぶが、それでも藤倉の舌が突起を掠める度にあられもない声を漏らしてしまう。俺の身体なのに、全然コントロール出来ない。

「んぅ、大丈夫だよ。ちゃんと両方舐めてあげるからね」

「な、にがだいじょ、ぶなんだよっ!こんの、ひゃっ!」

左の次は右、右の次はまた左…。律儀なのは悪いことではないが、今ここで発揮されても…。

藤倉の舌が少し離れる度に空気に触れたところがすうすうして、それがまた余計に刺激となって全身を巡った。あれだけ舐められるのを拒否していたはずなのに、離されると寂しくて、また熱い咥内に包まれると嬉しくなってしまう。

…もうやだ。こんなの俺じゃない。こんな自分…知らない。
こいつに感化されて、俺もどうやら相当おかしくなってしまったみたいだ。

「んっふふ、もう固くなってきた…かわい…」

「も、ん、ひぁっ…やめ、」

「おいしい…もっと欲しい…」

「もぉ何言っ、あぁっ?!」

ぢゅるぢゅるっと、より一層強い音を立てて突起を吸われた。途端身体中に電流が走ったみたいに全身がびくびく震えて、声にならない声が漏れる。

拘束された両手は動かすことも出来なくて、代わりに藤倉の身体を間に挟んだまま両足をバタつかせて刺激を逃がそうとした。白いシーツをぎゅっと足の指で掴む。

「吸われるの、気持ちよかったんだ?…はぁ…かわいい…」

「もっ、やぁ…」

悪戯に微笑った吐息が散々弄られた胸にかかる。それすらも熱く電流のように身体に流れ込んで来て、全身を甘く痺れさせるのだった。

…認めたくない。
気持ち良い、なんて…。

こんなの、おかしい。

気が付けば、俺はぼろぼろと涙を溢していた。異変に気付いたのか、伏せていた瞳がこちらを見上げる。俺が泣いていることにぎょっとした藤倉が、慌てて顔を覗き込んできた。

「さ、さわくんっ!?」

「も…、やらぁ…っ、なん、で、ひっ…おればっかり、」

「ごめん、ごめんねさわくん、泣くほど嫌だった?」

藤倉はさっきまで忙しなく突起を弄っていた親指で、今度は優しく頬を伝う滴を拭っていく。

「や、とかじゃなくて、だってこんなの…おかし、い。ひぅっ、胸触られたりした、だけで、こんな、なるなんて…」

「ごめんね。びっくりしたよね。おかしくないよ、大丈夫」

ぽろぽろと抗いようもなく溢れ出る涙をひとつずつ丁寧に、キスするように舐めとりながら藤倉がいつもよりずぅっと穏やかな声音で囁いた。

やがてくいっと上体を起こされ、また抱き締めるようにして背中に腕を回される。されるがままにしていると俺の両手を拘束していたパーカーが外されて、パサッと床に投げ捨てられる音がした。

自由になった筈の両手には思うように力が入らなくて、俺はそのまま彼の腕の中にすっぽり収まってしまう。

…あったかい。気持ち良い。
さっきまでのとはまた違う、安心するような心地好さに全身が包み込まれる。

薄々気付いてたけど俺って結構、馬鹿だよなぁ。藤倉に何をされてもこんな風に包み込まれてしまえば、やっぱり何度でもその体温にほっとしてしまうんだ。

気持ち良い。このまま眠ってしまいたい。だけど恥ずかしいことに俺、今…。

「…勃ってる」

「ひぁっ!」

藤倉の手がそっと壊れ物にでも触るような手つきで俺の股間に手を伸ばし、わざわざ耳元で呟いた。そっと軽く服越しに撫でられただけなのに、さっきまでの愛撫のせいで特に敏感になった俺の身体はびくんっと跳ね上がるほど反応してしまった。

…そんな現状報告されなくたって、俺だってさっきから気付いてるよこの馬鹿。

「…きもちかったの?」

「だっ、て!お前が、変に舐めたりとか…する、から…」

気付かれたくなかったことをはっきりと指摘されて、顔に一気に熱が集まるのを感じた。
きっと耳まで真っ赤に染まってしまった俺をぎゅうっと抱き締めたまま、性懲りもなく変態が囁く。

「やっぱり俺の勝ちだね。ね、ご褒美くれる?」

「ご、ほうび…?」

「…ここ。おれが触ってもいい?このままじゃ辛いでしょう?」

「う、…えっと、」

「…さわくんがどうしても嫌ならしないよ。おれに触られるの、いや?」

「うぇっ!?えっと、…でも、」

「いや、なの?」

「い、………いや……………じゃ、な…い…」

「ふふっ、うれしい」

最後の方は殆ど消え入るような声だったのに聞き取れたのだろうか。
少し顔を上げて、まだ涙で濡れたままの情けない顔を藤倉が覗き込んでくる。そうして近付く熱い吐息と、唇を塞ぐ湿った感触。頬にかかる猫っ毛は相変わらず柔らかくて、擽ったい。

「…んぅ、うわっ」

ベッドに深く沈む感覚がして、見上げると俺の世界は彼でいっぱいになっていた。

「…まさおみ」

耳元で低く甘く名前を囁かれれば、何故か身体中から力が抜けてゆく。

「いお、り…」

反射的に紡いだ名前。
涙で滲んだ視界の中心で、藤倉がうっそりと笑った気がした。

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