mitei 「嫌い」 | ナノ


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「それでさぁ、その時先生が入ってきて」

「わ、やべーそれっ。ははっ」

休み時間、クラスメートと談笑していると何かに気づいた友人に突然「おい」と小声で小突かれ、その友人の視線につられて俺も扉の方に視線を向けた。するとやっぱり今日も…。

「ひぇっ」

あぁ、またあの目だ。
もう何度目か分からないそのナイフのような視線に刺され、一瞬胸がつきんと痛んだ。

「なぁお前、また加野くんにめっちゃ見られてるぞ」

「うわぁやっぱ美形のキレ顔怖ぇぇ…緒方お前マジで何したんだよ?」

「何も覚えねぇよっ?!というかまともに話したことも無い筈なんだけど、な、何で?」

そう聞いても友人達は「さあ?」と首を傾げるばかり。まるで他人事のように全く真剣に考えてくれる気配がない。いや実際こいつらにとっちゃあ他人事なんだろうけどさ…。

それにしても俺、本当に何かしたっけ?

加野くんと同じクラスになってからというもの、事あるごとに何故だかああしてガンを飛ばされる様になってしまった。特にこうして友人達とじゃれている時、更にその視線が鋭くなることに気づいたのは最近のこと。騒ぎ過ぎたか?うるさ過ぎたのかな。何というか、俺達の笑い声がうっとおしい、とか?

それにしても睨み付けられるのは毎度のこと俺だけだし、かと言って俺が一際大声で騒ぎ立てている訳でも無ければ加野くんに迷惑をかけた覚えも無いし、何故あんなに鋭い視線を投げられるのかが分からない。寧ろ最近では彼に睨まれるのが怖くて小声で話すようにすらしていたというのに。

人気者である加野くんだって休み時間ごとに色んなクラスの人達にわいわい囲まれて忙しい筈なのに、そんな集団の中に居ても俺へガンを飛ばすことは忘れない。

…もうある意味律儀だとすら思う。

振り返った俺とバチッと目が合うと、加野くんは眉間の皺を一層深くしてふいっと自分のグループの方へ視線を戻した。俺から目を離した瞬間に眉間の皺なんて嘘のように消え失せ、そうして何事も無かったかのようにまた色んな人の中で笑っている。

何だよ、俺以外にはあんなに柔らかい笑顔を向ける癖に…。

何だって俺ばっかりあんなに睨まれなきゃならないんだ。俺が何をしたっていうんだよ!

「笑うときらきら王子なのにね」

「なぁ、俺何かしたっけ…」

「まぁ元気出せよ、ほら。チョコやるから」

「…子ども扱い。いいんだ、俺には花本さんがいるから」

「あぁ、お前にはちょっと高嶺の花なんじゃあ…」

「馬鹿っ!そこは嘘でもそうだなって返してやれよ!まぁ俺も緒方にはちょっと合わないと思うけどさ」

「お前らさ、遠慮って知ってる?…もぉいいよ」

もう考えるだけ無駄だと思って、俺も自分のグループの奴らと再び談笑を再開した。その背中にまた鋭く光るナイフのような、けれどどこか寂しげな視線が向けられていることには気付かずに。

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