今日も今日とて二人っきりの夕食。結局昼間のことは聞けないまま、いつも通りぽつりぽつりと他愛もないことを話すだけの穏やかな時間が過ぎる。
緋色の様子も、いつも通り。
あの時珍しく苛立っていたことが嘘のように教室に帰ってからはいつものきらきらとした笑顔を振り撒いていたし、食卓を挟んで黙々と食事をしている今でも不機嫌な様子は窺えない。
うーん…知りたい。
立花先輩と何があったんだろう。不機嫌だったのは先輩が原因だったのかな。僕が見ていたことは、結局バレていたんだろうか。というか、二人は一体どこで知り合ったんだろう。
帰り道に一度だけ、「今日何か嫌なことでもあったの?」と勇気を出して聞いてみたのだが、「別に」の一言で済まされてしまった。
結局深くは聞けないままだったな…。
ソファーの上で本の文字列をただ眺めながらそんなことを考えていると、後ろからまた気配も無く緋色が近付いてきた。片付けを終えたらしい彼は気付くとまた僕の隣に無言で腰掛けてくる。
忍者かこいつは…なんて心の中で突っ込んでいると、彼は今日はテレビのリモコンではなく僕の頭に手を伸ばしてきた。ゆるゆると、昼間学校でしたように僕の頭を撫で下ろしてはぽんぽんと優しく叩いて…を繰り返している。
はじめは想定していなかった事態にまたぴくっと小さく身体が強張ってしまったが、壊れ物でも扱うかのようなその優しい愛撫に僕の身体から段々と力が抜けていくのが分かった。
それにしてもこれは、何ていうか…馬鹿にされているのだろうか。小さな子供でもあやすかのような彼の突然の行動にやっぱり意味が分からず、僕は読んでいた文庫本から顔を上げて緋色を睨み付けた。
「あのさ…。昼も言ったけど、お前は一体何がしたいわけ?」
「家なら良いって言った」
「そんなこと言ってないけど?」
「俺が触るのも嫌?」
「緋色が?別に嫌じゃないけど?」
「…そう。そっか」
安心したようにほんの少しだけ目を細めると、緋色はまたゆるゆると僕の髪を弄び始めた。たまに額に手を伸ばしては、長めの前髪を横に分けたりなんかしている。…こんな癖っ毛なんて触って一体何が楽しいんだろう。
…あれ。
「俺が」ってどういうことだ?確かに僕はボディタッチは愚か他人と関わるのは苦手だけど、緋色は一体誰と比べてそう言ったんだろう。
物心つく前から一緒にいるのに、やっぱりこいつの考えてることは分かんないことだらけだなぁ…。
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