mitei Colors 3 | ナノ


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「学年一位…北村、緋色」

「きゃーっ!また一番じゃん?!」

「すっげぇなぁマジかよ!」

「すごぉい!今度勉強教えてもらおっかな?」

廊下にでかでかと貼り出された紙を見て、一喜一憂する生徒たち。
見る度に思うけど、まるで合格発表のようだな。

今回のテストもやっぱり緋色が一番か…。だけど今回は僕もよく頑張った方だと思う。だって。

「ってかさぁ、同率一位…め…めがさき?紺?…って、誰?」

「茅ヶ崎だろ。ちがさき。ほらあの、北村くんの幼馴染みとかいう」

「あぁー!あの子ね。あの、何かもさい感じの…顔は良く思い出せないけど」

「あの子も頭良かったんだぁ。まぁ見た目通りっていうか、…うん」

…本人が真後ろに居るんだけど言いたい放題だな。そんなに存在感無いのか僕は。
というかいい加減、テストの度に上位五十位までを貼り出すこの古びた風習を廃止して欲しい。誰が得するんだよ。
まぁいいや。いつもは一位が緋色で僕は二位で、といった具合に緋色に負けてしまうことが多いんだけど、今回は違う。同率一位か。
やっと、やっと緋色に追い付けたんだ!…勉強面では。

物心つく前から一緒に居る幼馴染みの緋色とは、年齢を重ねれば重ねるほど周囲から比べられる事が多くなった。背の高さとか、運動能力とか、頭の良さとか。

そんなもの一人一人違っていて当たり前のことなのに、僕は彼と比較されることがずっとずっと嫌だった。
僕が緋色より劣っていると周りに判断される度に、まるで彼の隣に居ることは赦されないことだと言われている気がしたから。

そりゃ緋色と比べてしまえば僕なんて彼に勝っているところなど一つも思い当たらないけれど、それでも僕は僕なりに出来ることをしようと決めている。
僕と居るせいで緋色まで馬鹿にされることがないように。例え自己満足でも、彼の隣に居ても恥ずかしくない自分であれるように。

とは言え運動能力や容姿はどうしようもないので、僕に出来るのはせめて努力で何とか出来る範囲の勉強くらいしかないんだけど。

それにしても今回のテスト勉強はかなり集中することが出来たなぁ。橙くんからの意味の分からない連絡の嵐も無かったし…。

ん?そう言えば…。

悪戯電話が無くなるのとほぼ同時に、橙くんからの連絡攻撃もパッタリ無くなった気がする。最初は彼もテスト勉強に集中しているんだろうと思っていたが、あの子そんなキャラかな。失礼だけど。
僕の考え過ぎかも知れないが、何かあったんだろうか。










「あれ…無い?」

最後に橙くんからメッセージが送られてきたのはいつだったかと、僕は家に帰ってからメッセージアプリを開いた。しかし、彼とのやり取りの履歴が無い。それどころか何と橙くんの連絡先ごと丸々消えていた。見当たらないだけかと思って何度か検索してみるが、それでも見つからない。
念のため連絡帳も確認してみると、彼に勝手に登録されていたはずの電話番号も見つからなかった。

「………え、何で?」

僕のスマホから、橙くんの連絡先がすっかり無くなっている…。
何で?自分で消した覚えは全くないけど、メッセージアプリのバグかな?だけど電話番号まで無くなってるっていうのは一体?スマホ自体故障したのかな。それは困るなぁ…。

「何してんの?紺」

「うひゃっ!」

僕がソファーでうんうん唸っていると、背後から突然声を掛けられた。画面に集中していた僕は吃驚して、思わず情けない声を上げてしまう。驚かした張本人はそれを聞いて背後からクスクスと楽しそうな笑い声を漏らした。
緋色が学校以外で声を出して笑うなんて、め、珍しいな…。

「ふっ…、驚き過ぎ」

「驚かしたのはそっちだろ…」

「勝手に驚いたのはそっちだろ?…ふふっ」

僕がゆっくり振り返ると柔らかな笑顔を返してきた緋色は、何だかいつもより楽しそうだ。情けない声を聞かれてしまった僕は赤面したままその綺麗な顔を睨み付けることしか出来なかった。しかしそんな僕のささやかな抵抗もお構い無しに、緋色もじっと見つめ返してくる。

「…何なの」

「いや?変な顔だなと思って」

「はぁ?」

少し口角をあげたまま悪戯っぽく失礼なことを言い放つ彼は、洗い物を終えてもまだ自分の部屋に帰る気は無いらしい。テスト期間が終わった解放感からか、緋色は楽しそうな雰囲気を隠しもしないまま許可も取らずに勝手に僕の隣に座ってきた。僕はほとんど無意識にソファーの端に寄り、彼のためのスペースを作る。もう一人分の重さを受け取って、少し固めのソファーがゆっくり沈んだ。

隣の彼はローテーブルに置いていたリモコンに手を伸ばし、頬杖をつきながらテレビのチャンネルをくるくると変えていた。どうやら真剣に観たいものは無かったらしく、適当に選ばれたバラエティー番組の笑い声が静かな部屋に響く。

そうして特に何をするでも話すでもない、いつも通りの穏やかな時間が流れ出した。

…橙くんの連絡先のこと、緋色に聞いてみようかな。緋色の方が機械とか詳しそうな気がするし。あぁでも、そもそも橙くんのこと緋色に話したことなかったかも。とりあえず、スマホが壊れたかもしれないってことだけでも言っておこうか。

「あのさ緋色、」

「ねぇ紺」

僕の言葉を遮って、緋色が口を開いた。

「ん?」

「頑張ったね。テスト」

「緋色もね」

「今回は、いつもより集中出来たんじゃない?」

「…?うん、まぁ」

「そう。良かったね」

今回は、か。それって今回やっと緋色と並んで一位になれたから…ってことかな。
だけどどこか意味ありげなその言葉がやけに引っ掛かって、僕は首を傾げた。緋色は相変わらず可笑しそうに口角を上げたまま、そうっと僕の頬に手を伸ばしてするりと撫でてきた。親指で何度もふにふにと僕の頬を弄んでは、やがて目元へ上って涙袋の辺りをつうっとなぞっていく。僕は優しいその刺激が擽ったくて思わず目を細めるが、それを見た緋色の目も緩く細められていた。

おぉっと、これはどうしたことだろう。今日の緋色はやっぱりどこかおかしいみたいだ。

今日は機嫌が頗る良いどころか、いつもより表情豊かだし緋色からのスキンシップも多い。絶対おかしい。熱でもあるのか?

「えと、…ひいろ?」

「紺…お前、もうちょっと太ってもいいんじゃない」

彼はそう言うと不意に頬をぷにっと摘まんできた。痛くはないが、何故か馬鹿にされている気がして少しイラッとした。

「うるへーはなふぇっ!」

「ふふふっ、変な顔」

…やっぱり、今日の緋色はどこか変だ。
テストが終わったのがそんなに嬉しいのかな。

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