「ごちそうさまでした」
「相変わらず綺麗に食べるなぁお前は」
「美味しいから」
「ありがと。でもお世辞言っても何も出ないよ?」
「知ってる。だから事実しか言わないよ」
天然タラシめ…。不意打ちの微笑に思わずどきりとしてしまった。よく一緒に居るから忘れがちだけど、緋色は美形なんだとこういう時によく思い知らされる。
ふわりと柔らかに歪む目元は、きらきらと星を閉じ込めたみたいに綺麗でまるで宝箱みたいだ。仕草だってひとつひとつ綺麗だし、背も僕みたいに丸まっていない。
同じように育ってきたはずなのに僕らはこうも違うんだ。
「…何かずるい」
「何が?紺だって綺麗に食べるじゃん。これ、もう洗ってくるね」
「ありがと…」
緋色が台所に消えてから、ポケットの中のスマホが震えて一瞬びくりと肩が跳ねた。メールとかじゃない。ご飯中や勉強中は音は鳴らないようにバイブだけにしている。ただの文字だけの通知ならもうとっくに止まっているはずなのに、ポケットの中の小さな箱はブーッブーッと五月蝿く存在を主張し続けていた。
これは電話かな。友達も少なく、滅多なことでは電話なんて掛かってこない僕のスマホ。もしかして緊急の連絡だろうか。緋色は今台所で洗い物をしているはずだし、母さんか父さんからかな…?
そう思って画面を確認すると、非通知だった。何だ?…悪戯、かな。
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