mitei Colors 2 | ナノ


▼ 1

昼休み。
勿論、僕はぼっち飯である。

緋色以外友達という友達が居ないし、人と居たってどうせまともに会話することも出来ないんだからまぁ、うん、必然的にこうなるよなぁ…。

人気者の緋色は昼休憩だって引っ張りだこで、色んな人から誘われていて三ヶ月先まで予約があるなんて噂も聞いたことがある。本人からじゃない。たまたま廊下で女子が話しているのを聞いただけだ。

三ヶ月先まで埋まってるなんて、どこぞの人気店か。なんて心の中で突っ込んではみるものの、放課後の誘いは余程の事でない限りほぼ全て断られてしまうのだから彼への誘いが昼に集中したってしょうがないのかもしれない。

まぁ、それが無くたって変わらないのかも知れないけれど。

僕は教室には何となく居づらくて、昼休みになると空き教室やら中庭やら、あまり使われていない階段の踊り場なんかで少し長い休憩時間を過ごしていた。

そうして今日は、最近見つけた穴場の裏庭のベンチで一人お弁当を広げていた。お弁当は自分で前日のおかずを適当に詰めることもあれば、余裕があれば母さんか父さんが作ってくれる時もある。今日は自作のもので、昨日のおかずもいくつか入れている。

「これ昨日、緋色がすごく美味しいって褒めてくれたやつ…」

そんな僕の独り言に返してくれる声はない。

一人で食べるご飯はやけに味気無く感じるけど、いいんだ。夜は独りじゃないから。

それに一人というのも、悪いことばかりではない。

基本的に誰も通らないらしいこの場所はさわさわと風が気持ち良く、学校であることを忘れてしまいそうなほど自然いっぱいだ。辺りは伸びっぱなしの草に覆われ、生徒も先生も見当たらない。

ここなら、誰の目も気にしないでいられる。

…少しだけ。少しだけならいいかな。
そうっと耳にかけた眼鏡に手を伸ばした瞬間、ガサガサッと不自然に草が揺れる音が聞こえた。明らかに風の仕業ではない。ビビリの僕は驚いて、ビクッと肩が跳ねる。

誰だろう。誰か来たみたいだ。こんなところ、誰も来ないと思っていたのに。

緊張で少し身体が強張るのを感じながらも、僕は眼鏡越しに音がした方向をじっと見つめた。

するとそこに現れたのは…。

「え、桃谷くん?!な、なん、何でこんなところに?」

「やっぱり茅ヶ崎か。お前こそ、こんなところで何してるんだ」

恐らく僕より二、三十センチは背が高いだろう彼はやはり凛とした佇まいでそこに立っていた。今日はあの時のように胴着ではなく、僕と同じ制服を着ている。ネクタイの色も僕と同じで、やっぱり同じ学年なんだと思い出した。
桃谷くんの制服姿をちゃんと見たのは初めてだったけれど、胴着の時よりも何だか少しだけ親近感が湧いてきて安心する。

「う、えーっと、お昼ご飯を…」

真っ直ぐな視線を向けてくる彼に僕は目も合わせられず、少し俯いてもごもごと口を動かすことしか出来なかった。しかし桃谷くんはそんなことは全く気にならない、という風に僕の座っている方へ近づいてくる。

「こんなところでか?物好きだな」

「いやいや、も、桃谷くんこそ何で?」

「何でって、ここ部室の近くだし。ミーティング終わりに誰かがここに入っていくのを見かけてな。何となく茅ヶ崎に似ている気がしたから追ってきてしまったんだが、正解だったようだな。…悪い、迷惑だったか?」

「迷惑だなんてそんな!全然!ちょっと驚きはしたけど…」

「そうか。良かった。実はまたお前と話してみたいと思ってたんだ」

「えっ?」

予想外の言葉に思わず素っ頓狂な声を出して顔を上げた。この僕と、もう一度話してみたいだって?…彼は、不快じゃないのだろうか。こんな人の目もちゃんと見られない根暗野郎なんて。
しかしそう言う桃谷くんはあの去り際の時みたいにふっと目尻を下げて、まるで許可を問うかのように僕に微笑みかけていた。その姿に、馬鹿にしている様子なんて一ミリも見受けられない。ちょっとネガティブ過ぎたかな…。桃谷くんとはあの時以来話すのは二回目だけど、真っ直ぐで誠実な人だという印象はやはり変わらなかった。
きっと本当に心から僕と話してみたいと思ってくれたんだろう。

「ちょっと詰めてくれ」

「え、え?あの、桃谷くんもここで食べるの?」

「あぁ。邪魔じゃなければ。良いか?」

「えっ、ええ?!邪魔な訳ないよっ!だけど、本当に良いの?」

「何故だ?俺もお前も良いと言うんだから何の問題がある」

そう言うと桃谷くんはガサッと購買の袋から大きなパンを取り出して豪快に噛りついた。うわぁ、運動部っぽいなぁ。何というか、見ていて気持ちが良い食べっぷりだ。

見ていたことがバレたのか、桃谷くんはちらっと僕の顔を見ようとこちらに向き直った。僕はその視線が合わさる前に、また慌てて俯いてしまった。視界には色合いなんて考えずに詰め込まれた、冷めきったおかずと白いご飯だけが映る。

「…ご、ごめん」

「何で謝るんだ?」

「だって、不快に思ったでしょう?今みたいに目を逸らされたりして…。ぼ、僕はその、…人の目を見て話すのが、苦手なんだ」

「まぁ驚かせてしまったのかとは思ったが、何だそういうことか。少し安心した」

「…へ?」

「いや、俺は顔が怖いのかよく他人を怯えさせることがあるから、また無意識に怯えさせてしまったのかと思ったんだ。だけどそうか…。お前、人が怖いのか?」

「あっ…」

桃谷くんの直球過ぎる質問に思わず声が詰まる。桃谷くんの言葉はいつも真っ直ぐだ。見えはしないけれど、あの凛とした瞳もきっと今真っ直ぐに僕を見据えているのだろう。

「答えにくい質問だったら、答えなくて良い」

「ううん。君の言う通りだ。僕は、臆病なんだ…」

「ふむ…。そんなことはない、と思うが」

「え、」

「いや。苦手なことを話すのは勇気がいっただろう?お前は今俺に話してくれた。逃げずに、ちゃんと打ち明けてくれたからな。それは臆病なら出来ることではない、と思うが」

そんなこと、初めて言われた…。

「あの!も、桃谷くん、ありがとう…。ありがとうね」

「ん?俺の方こそ、お前のことがまたひとつ知れて嬉しいよ。話してくれて有難うな」

「…うん!」

やっぱり桃谷くんは漢の中の漢だ…っ!考え方までもが格好良い、格好良すぎる!
こんなに優しい人も居るんだなぁ。

「そう言えば、あれからどうだ?また変なのに絡まれたりはしていないか?」

「あぁ、もう大丈夫だよ。斎藤くんたちも、あ…」

「ん?何だ?」

桃谷くんに助けられてから一週間くらい経っただろうか。あの時僕に絡んできた斎藤くんたちは何故か次の日から三日くらい登校してこなくて、最近やっと学校に来るようになったところだ。けれど彼らの様子は以前とは少し違っていた。緋色とはもうつるんでいないようで、前まで教室で見せていた笑顔の代わりに、時折何かに怯えているような顔を見せるようになっていた。
それはきっと桃谷くんのせいではないと思うけれど、こんなことを話したら優しい彼は斎藤くんたちの事も心配してしまうかも知れないし、少なからず責任を感じてしまうかも知れない。

「大丈夫だよ。もう皆、何もしてこなくなったから」

「そうか。なら良いんだ」

「うん。ありがとう」

桃谷くんと話すのは嫌いじゃないかも知れない。正直もっと気難しい人かと思っていたけれど桃谷くんは案外よく笑うし、くだらないことでも真剣に聞いてくれる。それに、無理に目を合わせようとしてこない。

「なぁ、また一緒に昼飯食ってもいいか」

「え、いいの?」

「あぁ。お前と話すのは思っていたよりも面白いし、五月蝿過ぎなくて居心地が良い。だからまた話して欲しい。まぁ茅ヶ崎が良ければ、だが…」

「ぼ、僕なんかで良ければ!僕もその、また話したい、し…」

出来れば友達になりたい…なんて。

「そうか。なら良かった」

まだ顔は直視出来ないけれど、穏やかな声でそう言った桃谷くんはきっと朗らかに笑ってくれているんだろうなぁと思うと僕も少し嬉しくなった。










「北村くーん!何見てんのぉ?」

「んー?いや、猫がいたと思ったんだけどもうどっか行っちゃったみたい」

「えぇー猫ぉ?!見たかったぁ!」

「ははっ。残念だね」

「でも裏庭って木が多くてぇ、猫居ても分かんなくない?正直言って邪魔だよねぇ?全部切っちゃえばいーのにぃ」

「そうだね。すごく…邪魔だな」

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