mitei Colors 2 | ナノ


▼ 8

「どういうつもり」

「何スか先輩?怖い顔しちゃってー!オレら初対面でしょ?もっと仲良くしましょうよぉっ」

校舎裏。この時間は誰も通らない。
唐突に北村に呼び出された橙は、臆しもせずに付いていった。

「無駄口はいい。泣き顔は可愛かったけど、あんな顔させていいのは俺だけ」

「えぇ?何のことッスかぁ??」

「…」

どうやらとぼけても無駄らしい。ピクリとも動かない北村の顔を見てそう悟った橙はあからさまに開き直った。

「ずるぅい!ちぃセンパイの泣き顔とか俺も見たか、」

ふざけたような顔でおどける橙の前に北村がスッとある画面を差し出すと、橙の表情がピタッと止まった。
それはサッカー部の期待のエースが、部室で煙草を吸っている写真だった。

「二度は言わない。次やったら赦さない」

そう告げる彼の瞳に温度はない。

いつ撮ったんだよ、とかどこから漏れた、とかあらゆる疑問とともに得体の知れない恐怖が背筋を伝い、橙はしばらく言葉が出なかった。

そんな橙の心情を察したかのように、淡々と彼は続ける。

「そう。その感覚忘れないでね。もうこんなんじゃ済まさないけど」

抑揚なくそう言うと北村は教室へと戻っていった。

「ふっ、んっふふふ…あは、ははははっ」

何故だか笑いが止まらない。北村が去ってからも、橙は一人くっくっと笑いを溢した。どうしようもなく笑えてくる。自分の一連の悪戯がバレていたことや、それを咎めるためか自分のことも調べられていたこと。きっと彼が持っている手札はあんなものじゃないだろう。

あぁ、笑いが収まらない。それなのに、さっきの氷のような眼差しを思い出すだけでガクガクと膝は震えて、冷や汗が止まらなかった。

「はは…はぁ。思ってたよりやべぇ人敵に回しちゃったかな?」

斎藤達も、同じような気持ちだったのだろうか。橙がその場から動けるようになるには、少し時間がかかったのだった。










「緋色」

「お待たせ紺。帰ろうか」

「また告白?」

「…みたいな」

「…そう。ってか、わざわざ待ってなくちゃ駄目だったの?」

「うん。だめ」

彼の瞳には、暖かな温度が戻っていた。先程の何の感情もない氷のような眼差しなど嘘であったかのように、今はただ柔らかくたった一人を映す。それ以外の眼差しなんて知る由もないそのたった一人の少年は、長い足がゆっくりと歩き出すのに合わせていつものごとく隣に並んだ。

「そうだ、紺」

「ん?」

「明日からまた一緒に帰れるよ」

「そうなの?別に気遣わなくていいのに」

「違うよ。俺がそうしたいだけ」

いつだって、俺がそうしたいだけだから。心の中で続きを呟きながら隣を歩くボサボサの髪をくしゃりと撫でると、彼は無意識なのか、少しだけ頬を赤くして目を細める。

北村はそれを満足げに眺めてから、今日もゆっくりと紺の歩調に合わせて帰路に着くのだった。

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