「クリスマスっつっても冬休みだし、普通に宿題あるし…特別感ねーよなぁ」
「今からケーキでも買ってくるか?」
「俺今日は家でクリスマスケーキ待ってるから。姉ちゃんの実験台」
「いいよなぁー菓子作り得意なお姉さんが居て。俺なんて自分で買ってこいってさぁ、なぁ酷くね?澤もそう思うだろ?」
「ありゃ、澤?澤くんやーい」
「えっ!うん、あぁ…何?」
目の前でひらひらと手を振られ、漸く自分がぼうっとしていたことに気づいた俺。そんな俺を見て、中学からの友人は軽く溜め息を吐いた。
「お前、今日ぼーっとしてるけど何かあったの?楽しくない?体調悪いとか??」
「いやいや!楽しいよ大丈夫!ちょっと考え事してただけっていうか、俺もどんなケーキ買って帰ろうかなーなんて」
「んだよー、話聞いてたんじゃんー!」
「あっはは!」
うん。楽しくない訳じゃない。
今年もいつも通り皆で集まって、わいわい騒いで夜には解散かな。ケーキはもう家で用意されてるだろうから本当は俺が買う必要なんて無いんだけど、ちょっと嘘ついちゃったな。
何だっけ…。俺何でぼうっとしてたんだっけ。そうだ、あいつだ。全部あいつのせいだ。
数日前の別れ際、俺が電車から降りる時に「クリスマス、楽しんでね」と柔らかに微笑んだあいつ。いつも通りのはずのその笑顔がどこか暗く翳って見えて、やけに引っ掛かって胸の辺りをざわつかせてくるんだ。
藤倉とは、終業式の日以来会っていない。たった数日なのに何だかやけに隣がすうすうして、少し変な感じがする。クリスマスは予定があるって言ってたし、メッセージのやり取りも無いし冬休みに遊ぶ約束なんかも特にしていない。予定は考え中って言ってた癖に、あれは何だったんだ?
とにかく引っ掛かることがたくさんあって、奴と会わない日でも頭の中ではぐるぐると同じ顔が再生されていた。それに今日は特段藤倉のことが気になる。何でだろう…?
…あいつに会ってこのもやもやの正体を確かめたい。
「あのさ、悪いんだけど、俺この後ちょっと早く帰んなきゃで」
夕方頃、皆で店を移動しようかというタイミングで俺が切り出した。何でか分からないけど、居ても立ってもいられない。皆には少し申し訳ないけど、今すぐ向かいたい気持ちには抗えなかった。
申し訳無さそうにする俺の頭をポンッと撫でて、友人の一人が微笑んだ。
「いーよ。俺らも楽しかったし。やっぱ誘って良かったよ。また遊ぼーぜ」
「うん。ありがとな」
「あ!」
「え?」
「今頭ポンッってしたことは、藤倉くんには内緒な。頼むから。後生だから」
「お、おう…?」
何で藤倉?………まぁいっか。
そうして皆と別れ、家族には少し帰るのが遅くなるかも知れないと連絡を入れてから、俺は駅に向かった。
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