mitei 俺の世界ときみの世界と | ナノ


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「…何してんの」

「んー?見て分かんない?タイルの白いとこだけ踏んでるんだよ」

いつもの帰り道。
何だか変な動きをして歩く隣の幼馴染みを不審に思い足元を見ると、彼はランダムに色分けされた路上のタイルを器用にも白いところだけ踏んで歩いていた。

「いやそれは分かるけどさ。何でそんなことしてんのって意味だよ」

「んー、何となく」

足が長い幼馴染みは遠いところのタイルも何のその。俺なら多分届かないんじゃないかな。いや、ジャンプすれば何とかいけるか?くそ、羨ましい。
一応周りに人がいないのを確認して、迷惑にならないようにしているのが微笑ましいというか、何というか。

「小学生じゃあるまいし…」

横断歩道の白いとこだけ渡る、みたいな。

整った顔をくしゃりと歪め、ふふっと無邪気に笑う幼馴染み。
俺がムスッとした顔で睨みつけても本当に楽しそうに笑うもんだから、なんだか気が抜けてしまう。
昔っからこいつは思ったことをそのまま実行する、ちょっと変なやつだった。

「あ、白いとこ無くなっちゃった」

「ばーか」

毎日毎日飽きもせず、こうしてくだらないやり取りをして家路につく。

太陽が西へ向かう。
世界がちょっとだけオレンジ色に染まり始めていた。

何も知らない人から見れば、こいつの行動は理解できないことも多いだろう。
道端で突然しゃがみこんだり、何もないところをぼーっと見つめていたり、突然方向転換したり…
何でそんなことをしてるのか、今度は一体何を見つけたのか…
付き合いの長い俺だって未だに聞かなきゃ分からないことだらけだ。

だけど俺は知ってる。
一見訳の分からないこいつの行動には必ず意味があることを。
まぁ大抵は、珍しい色の虫がいたとか、猫が通り過ぎたとか、面白い形の雲があったとか、そんな些細なことばかりだけれど。

それこそくだらない、小学生かよ、と笑われるかもしれないが、俺はこいつが見ている世界が好きだ。

自分じゃ気づけないものの見方を教えてくれるし、きれいだったり、奇妙だったり、小さくても新しい発見があったりする。
何より、こいつがとても楽しそうに自分の世界を俺に分けてくれるのが、すごく嬉しかった。




「また告白?」

「うん、多分」

放課後、頼んでもないのにいつも俺のクラスまで迎えに来る幼馴染みから、今日は「ちょっと待ってて」と連絡が来た。
大人しく下駄箱で待っていると、待ち人は結構すぐに現れた。

「多分て」

「何か手紙渡された」

「告白だろ、それは」

「へー」

へーっ、て!もっと興味持てよ。
中学の時から何気にそこそこモテてたけど、高校に入ってこいつの背が伸びるにつれ、女子人気にますます拍車がかかっている気がする。
こいつの奇行の数々は校内でも有名だが、それでも今月に入ってもう三回は告白で呼び出されてるんじゃないか。
世の中どうなってるんだろう。やっぱり見た目か。見た目なのか…!

「俺もイケメンに生まれたかった」

「イケメンかどうかは分かんないけど、かわいいよ?」

「かわいくないし嬉しくないしチビじゃない」

「そこまでは言ってない」

靴を履いて校門を出る。
野球部の掛け声がグラウンドから聞こえる。アップを終え、運動部は今から本格的に活動するんだろうな。

「また断るの?告白」

色違いのタイル。この前白いとこだけゲームして歩いていた道路に出た。
今日は普通に歩いている幼馴染みに聞くと、彼は「うん」と迷いなく答えた。

「なんで」

「なんでって?」

「なんで毎回断るの」

「断っちゃ駄目なの?」

「駄目じゃないけどさ、彼女とか欲しくないの?もう高2じゃん」

「お前もいないじゃん」

「うるせぇな。おれのことはいいの!
お前こそ何回もチャンスあるのに何で恋人作らないの」

「作って欲しいの?」

「俺は…いやいや、それは俺じゃなくてお前の意思だろ」

「じゃあ断るのやめようかな」

「えっ」

「え?嫌なの?」

心なしか嬉しそうだな、こいつ。からかわれてる気がする。

「いや、ちょっとびっくりしただけだし。今まで頑なだったのに急にそんなこと言うから」

「あ」

「え?」

気が付くと、彼の姿がない。
またいつものあれか。きょろきょろと辺りを見回すと、お、居た居た。座り込んで路地裏を凝視している。
今度は一体何を見つけたんだろう。

「猫じゃん」

「猫だね」

路地裏には、何かやたら太っている猫が座っていた。…猫背だな。いや猫だから当たり前なんだけど。
そう思っていると、

「あいつデブで猫背だよね」

と、まるで俺の心を読んだみたいなことを言われてドキッとした。

「何か悪口みたいだな。そりゃ猫なんだから猫背だろ」

実にくだらない、中身のない会話だ。
しゃがんだままの彼はそっと猫に手を伸ばしてみるが、逃げられてしまった。
成績は良いのに馬鹿だなぁこいつ。

…あぁ、おもしろいな。
こいつといるこの時間が、好きだな。

ふと考えてしまった。
もしこいつに恋人ができたら、今度はその恋人と、こういう時間を共有するんだろうか。
毎日一緒に帰って、くだらない話をして、意味の分からない行動に振り回されたりして、発見を共有しあって…。

それは、今の俺の立ち位置だ。
その場所に、いつか別の誰かが入るのだろうか。そうしたら、俺の居場所は…。

パンッ!

唐突に目の前で音がして、思わずビクッと肩を揺らした。何事かと目を瞬いていると、目の前にはにやにやとした憎たらしい姿が。
顔の前で手を叩かれたのだ。

「猫だまし。だまされてやんの」

ふふふっ、とまるでいたずらが成功した子どもみたいな幼さで、彼は笑った。
本当に精神年齢は成長しないやつだな。

見事に猫だましを決められたからか分からないけれど、その日の帰り道、何故だか彼はいつも以上に上機嫌だった。

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