さっきまでおれの体温を溜め込んでいたマフラー。それが今彼の首に巻き付いていて、間接的におれの体温を伝える。そうしておれの熱が血管を通り彼の身体中に行き渡っていくことを考えるだけで、興奮でさっきまで冷えていた身体が芯から熱くなる。彼が言う通り、俺は十分変態だ。だけどこんなことを考えて隣に居るなんて、きみは思ってもいないんだろうなぁ。
無理矢理ポケットに入れた彼の右手は、少しだけ汗ばんで熱そうだった。彼が突っ込んできたカイロを俺の右ポケットに移して、もう一度手を握り込む。
出来るだけ、肌の触れ合う面積が大きくなるように。ほんの少しでも、彼の、澤くんの体温をおれの中に取り込んで、おれの体温を彼の中に送り込めるように。
分け合う熱で、いっそ二人して溶けてしまえばいいのに。なんて。
でもそうしたらもうきみを感じられないなぁ。
じゃあやっぱりもう少しこのままでいいや。
「ふふっ」とおれが微笑うと、彼が訝しげに見上げてくる。
「何だよ」って言うのかな。
「何だよ」
当たった。それがまた堪らなく嬉しくて、頬が緩むのを抑えられない。
「なーんでも。ねぇ、」
「…だから何」
「手汗すっごいね?」
「だったら離せよっ!」
「あっははっ!」
逃げようとする手をほんのちょっと引き寄せて左ポケットに戻す。
馬鹿なきみは本気で離そうとしないんだ、分かってるよ。
そんなんだから、おれみたいな変態が付け上がるんだよ。
ねぇ、おれがここまで調子に乗るのはきみのせいだよ。
だから、もう少しこのままで。
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