mitei 藤倉くんはちょっとおかしい4 | ナノ


▼ 4.藤倉くんと待ち合わせ

約束していた週末。学校ではしょっちゅう顔合わせてるし家にもお邪魔したことはあるが、わざわざ待ち合わせなんてして外で会うのは初めてかもしれない。たまたま街中で遭遇したことはあるけれど、待ち合わせっていうとまた違う特別な感じがする。
まぁ俺の買い物に付き合ってもらうってだけなんだけど。

それにしても、待ち合わせ場所ちゃんと分かるかな。駅前だし人が多い所だから見つけられないかも。

そんなことを考えながら待ち合わせ場所付近に到着すると、その心配が杞憂だったと瞬時に分かった。いやいやいや、かなり分かり易い。分かり易過ぎる。

確かに人は多い。しかし一極集中で、女子率が圧倒的に高い場所がある。その中心に囲まれるようにして立つスラッとしたモデルのような身体は、制服の時とは雰囲気がまた違ってやけに大人びている。外出すると何故か藤倉に遭遇することが多いこともあって奴の私服姿はこれまで何度か見たことがあるが、今日は一段とお洒落で、悔しいが格好良い。

制服よりもタイトな黒のパンツは奴の足の長さを一層際立たせているし、服装はモノトーンで統一されているのに、明るめの髪色と赤のスニーカーがワンポイントになっていて全体的にバランスが取れている。

ラフな服装の癖に何なんだあの存在感。

Tシャツだけでも様になるくせに、きちんとした外出スタイルは一際人目を引くようだ。

…芸能人かよ。なんて思っていると、何やらスーツの男性に名刺を渡されているのが見えた。あれはまさか、スカウトか?

スカウトとか本当にあるんだ…。初めて見た。いつも一緒に居るせいで俺の美的感覚の方が鈍っていたのかも知れない。いくら学校での奴を思い返してみても変態で意味が分からない行動や言動の数々が浮かぶのみだが、それでもあいつはスカウトされるくらい格好良かったのか。
…何か納得いかない。

しかし一人で木陰に立つ藤倉の周りはやはりキラキラとしていて、いつ声を掛けようかじりじりと距離を詰める女の子達で一杯だ。モテるってのも大変なんだな…。俺にはきっと一生分かる事の無い苦労だろう。

って観察してないで、待たせてるんだからそろそろ待ち合わせ場所まで行かなくては。

待ち合わせ場所に近づくと、それまでスマホに夢中でずっと顔を伏せていた藤倉がパッと顔を上げた。その視線は交差するたくさんの人をすり抜けて、真っ直ぐに俺を捉える。

こんなに人がいて、まだ声が届くか届かないかくらいの距離があるのに何で分かったんだ。そんなに特徴があるわけでもない俺を一瞬にして見つけるなんて…。
もしや嗅覚か?あいつはマジで犬科なのか?

「澤くんっ!」

俺と目が合った瞬間それまで無表情だった顔が途端に花が綻ぶような笑顔に変わり、ざわっと周囲が色めき立つ。

そのまま俺の方へ小走りで駆け寄ってくる表情は、俺の知ってるいつもの藤倉だ。

「まだ10分前なのに早かったな。待たせて悪かった」

「んーん全っ然!俺もさっき来たと、こ…」

と、何かに気づいたように突然少し頬を赤らめる藤倉。風邪か?と思ったが元気そうだし、そうでもないらしい。

「大丈夫か?」

一応聞いてみる。

「いや、まさかこんなベタなやり取りが出来る日が来るなんて…」

あぁ、そんなに友達と遊ぶのが嬉しいのかな…。いや、そこまで感動するか?

それにしても、さっきからやたらと周りに見られている。ふと目が合ったのは、藤倉にいつ声を掛けようかチャンスを窺っていた女の子たちだった。心なしか睨まれている気がする。

まぁ、(変態だけど)こんな美形の待ち合わせ相手には一体どんなすごい奴が来るのかと思ったらとびきりの美女でも美男でもなく、特に格好良くもないこんな平凡野郎が来たんだ。そりゃ「何で?」って顔にもなるよな。なるかな。
放っといてくれよ…。

「…行くか」

「うん」

周囲の視線はもちろん藤倉の待ち合わせ相手だった俺にも突き刺さり、何だかいたたまれなくなって移動を急いだ。いつも通り隣に並んで歩き始めるが、すぐに藤倉の歩みがゆっくりになって立ち止まる。気になって俺も振り返ると、ちょうどこちらを向く瞬間の彼と目が合った。

「藤倉?何かあったの?」

「んーん。何も」

「…そっか?」

「早く行こ?」

「おう」

何してたんだろ。
やっぱり何となく気になって、俺もちらりと後ろを振り返る。するとさっきまで俺たちをじろじろ見ていた視線は無くなっていて、皆そそくさと道を急いだりスマホを見たりしていた。さっきまであんなに藤倉に興味津々だった女の子たちも、誰一人としてこちらを見ていない。

…人の興味なんて、そんなもんなのかな。

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