mitei 藤倉くんはちょっとおかしい4 | ナノ


▼ 3.澤くんとはじめての

前々から何となく気付いてはいた。そろそろ駄目なのかなって。でもずっと一緒だったし、中々決心がつかなくて見て見ぬ振りをしていたんだ。だけどそれももう、限界が来てしまったらしい。

二人で並んで歩くのが当たり前になったのは一体いつからだろう。その二人での帰り道、俺はどうしても無視出来ない違和感に、足元を見下ろした。

「澤くん?どうしたの?」

隣で藤倉が心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。

「いや、もうそろそろ限界来たかなって」

「え」

あーぁ。やだなぁ。結構気に入ってたのにな。

「やっぱもう捨てるしかないよな」

「………え」

「靴、買い替えるかー…」

そう、俺のお気に入りの運動靴にも遂に限界が来たらしい。親指の辺りに小さな穴が開いてるし、踵も擦れ過ぎて大分薄くなってきている気がする。雨の日にこれ履くと水が染み込んでくるぐらいだもんなぁ。絶対裏の方もどっか穴開いてるかも。

「く、つ…?」

「おう。こないだお前が言ってたみたいにもしかして歩き方にズレがあんのかも。左の方が特にヤバくってさ、…って、藤倉?」

「あ、あぁ、靴!靴か。そか…。良かったー…」

見上げると、ふうっと胸に手を当ててあからさまに安堵している様子の藤倉。何でかすごく焦っていたみたいだ。いや、何で?

「何で安心してんの?」

「いや、俺遂に捨てられるのかと…」

「捨て…?はぁ?何言ってんだお前」

捨てるとか、物じゃあるまいし。マジで意味分からん。けれど藤倉は一瞬真剣に焦ったらしく、まだちょっと元気が無いみたいだ。犬耳がシュンと垂れてるぞ。
俺が見ているのに気付くと、すっといつも通りのヘラヘラした表情に戻ってしまった犬倉。「ん?」と小首を傾げて何事も無かったかのように見つめ返してくる。

「買い替えるの?靴」

「うん。まぁしょうがねーしな」

「そっか。結構お気に入りだったんでしょ、それ。」

「そうだけど…何で分かったの?」

「だってその靴ちゅうが、あー…結構長いこと履いてたもんね」

「…おう?」

今ちょっと噛んだ?あの藤倉が?…まぁいっか。
確かに今履いている運動靴は俺のお気に入りで中学校の時からお世話になっているものだが、本当に人のこと良く見てるんだなぁこいつ。

あ、そうだ。

「お前今週末暇?」

「…へ?」

「もし空いてるなら付き合ってくんない?靴買うの」

「………」

「あ、駄目だったら全然いいんだけど、」

「駄目じゃない駄目じゃない!ってか、本当にいいの?」

「え、何が?」

「それって初でー、…いや、何でもない」

「予定あるなら別に無理しないでも」

「行く」

「え」

「這ってでも行く」

「お、おう…?」

何もそこまで…。大袈裟な奴だな。
だけどさっきまでちょっと元気が無くなっていた藤倉が途端にいつも通り、いやそれ以上に上機嫌になったから、まぁいいか。

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