mitei サンライズイエロー | ナノ


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転校生が来てから数日。
校内のざわめきも流石に少し落ち着いてきて、やっと普段通りの学校生活が戻ってきたようだ。少なくとも俺の周りは。

授業も終わりさっさと帰ろうと廊下を歩いていると、何やら向かい側の廊下が騒がしいことに気づいて立ち止まる。

あ、あいつだ…。
突っ立って見ていると、ざわざわと大勢の生徒を連れてジャージ姿の先生と真っ黒な転校生が歩いてきた。
落ち着いたとはいえ、まだやはり彼の周りは人が多いな。ただ今度は野次馬というより、彼と仲良くなりたい生徒が周りに集まってきているようだ。
あれじゃあ普通に歩くこともままならないんじゃないか。相変わらず大変そうだなぁなんて話したこともない彼に勝手に同情しながら、俺は集団とすれ違って下駄箱に向かおうとする。
すると近づいてきたジャージ姿のいかつい先生に突然呼び止められた。予期していなかったことに思わずビクッと肩が震えて、恥ずかしい…。

「おい、そこの!悪いんだけどこいつに校舎の案内してやってくれるか?」

「へ?俺別に委員長でもないですけど。というか、同じクラスの人に頼んだ方がいいんじゃあ」

いきなり呼び止められたかと思えば、転校生の校舎の案内役を命ぜられてしまった。俺が?今?何故?というかもう転校して一週間近く経ってるよな?案内するの遅くないか?などなど、頭上にはてなが飛び交って混乱してしまう。
何故だ。突っ込むべきところなのかこれは。しかし眼前の教師は至って真剣な眼差しで困惑する俺を見下ろしたままだ。

「委員長は今日は別件で忙しいんだよ。他クラスとの交流も必要だろうが。お前どうせ帰るとこだろ?頼んだぞ」

えぇ…横暴だなぁ。これじゃ本当に命令だよ。職権乱用だよ。
心の中ではそう言うも実際に反論することは出来ず、何だかんだと案内係を押し付けられてしまった…。カイが待ってるだろうから早く帰りたいんだけどなぁ。スーパーにも寄らなきゃなんないし。

「先生!それなら私が!」

「僕が!」

「何でこいつなの?嫌がってんじゃん!」

俺が困惑していると、転校生を取り囲む生徒たちが我先にと手を挙げて口々に叫んだ。
まぁそうなるよな。
転校生に少しでもお近づきになりたいらしい生徒たちは必死の形相で教師に食い下がる。もう他クラスどころか他学年も混ざってるし十分交流になってるんじゃあ…。
もうその人たちで案内すりゃいいじゃん。俺いらないじゃん…。

そんな周りの喧騒をまるで雑音のように無視して、白雪姫みたいな転校生がすっと俺に近づいてきた。

彼が動いた瞬間ふわりと香る、風。
雨上がりの土の匂い、…みたいな。

「よろしく」

俺に近づく美しい仕草に見惚れていると、目の前にすらっとした真っ白い手が差し出された。真っ黒い目は何も語らず、ただじいっと困惑したままの俺を見ている。

しばしの沈黙。揺らぐことのない、真っ黒な視線。どうやら俺に選択肢は無いらしい。
半ば諦めて手を握り返すと、転校生の背後で自分の出番を今か今かと待ち構えていた生徒たちが「えー!」「抜け駆けだ!」なんて思い思いに罵声を浴びせてきた。あぁもう面倒くさい!
ひとしきり好きなように喚いた後「行こ行こ」「今日はしょうがないか」「ほんと何なんだあいつ」なんて零しながらざわざわと散っていく。お前らが何なんだよ、もう。

「あー、じゃあ、行こっか。えと、」

「…しゅり」

「へ?」

「黒川柊凛。僕の名前」

「あ、ああ!俺は常盤陽多。よろしく」

名前も黒いのか。何か取ってつけたみたいな苗字だな…なんて思ったのは内緒だ。いや、全国の黒川さんのことを悪く言いたい訳じゃなくて、彼の見た目にあまりにもぴったりだという意味で。
俺が自己紹介すると転校生はふっと目尻を下げて微笑んだ。窓から差し込む僅かな光を反射して、黒髪がさらりと揺れる。
…へぇ、そんな風に笑うのか。遠目から見る彼はいつも色の無い表情をしていたから、少し意外で思わずどきっとしてしまった。

その日から、転校生とはクラスも違うのに事あるごとに何故か俺が指名され、気づけば俺は彼に校内の色んな事を教える世話係みたいになっていた。

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