「そういえば、何で俺が猫舌だって分かったの?寝相が悪いことも、人混みが苦手とか、好きな味付けとか色々」
「知ってるよ。きみのことは何でも。カイが教えてくれるからね」
「え...カイ?」
「そう。カイを通してきみを見ていた。言ってなかったっけ?カイは僕の...何ていうか、使い魔みたいなものだよ」
「え、猫じゃないの?」
「猫だよ?猫と思えば、ね」
………え?なん、え?
使い魔?って言ったか。え、幻聴かな。
会話の内容を解っているのかいないのか、「にゃあ」と猫らしい声を出して膝に擦り寄ってくる灰色の俺の弟。ずっと猫だと思っていたけれど猫じゃないらしい、でも猫と思えば猫の俺の弟。どういうことだ。ちょっと頭が追い付かない。
「え、ちょっと待って。見てたって何を」
「全部」
「え」
「ぜんぶ。少なくともカイの見ていた景色は全部ね。ハムスターみたいに頬張る癖も猫舌なところも寝顔も泣き顔も笑顔も、全部。寝相の悪さにはちょっと驚いたけど」
「え、うぇっ!?えええええ!!?」
驚きと羞恥で理解が追い付かない…。今までの生活ってもしかして、カイを拾ってから全部…?う、嘘だろ…。
カイは猫らしく水が嫌いだから一緒に風呂に入ったことはあまりない、から…裸までは…いや、それでも…。
「ん?」と何でもないことのように微笑む柊凛がひどく意地悪に思えた。
そう言えば思い当たることはいくつかある…。泊まりに来たときも知らないはずのタオルや洗剤の場所を知ってたり、教えてもいない家の古くなっていた箇所が修繕されていたり…。
柊凛は勘が良いから言わなくても気づくし分かるのだと思っていた。
だからまさか、まさか自分の生活が見られているとは夢にも思わなかった。
気持ち悪いとは思わない、が…。あれこれ思い出して、あんな姿やこんな姿まで見られていたのかと思うとただただ恥ずかしい。
普通ならば犯罪なのだが、それが悪いことだとは微塵も思っていないらしい彼の笑顔は少し、いやかなり厄介に思えた。
それは、反則だろう...。
prev / next