mitei サンライズイエロー | ナノ


▼ 9

「おはよ。陽多」

「おは、よ…?」

「朝ごはん出来てるよ。勝手に台所借りちゃってゴメンね」

朝起きると何だかほのかに良い匂いがして、眠気眼を擦りつつも誘われるように一階へ降りると柊凛がエプロンをつけて台所に立っていた。俺の気配に気づくとスッと姿勢の良い背中が動いて、くるりとこちらを振り返る。台所の小さな四角い窓から差し込む少し黄色い光が彼の輪郭を照らしている。

まだ寝起きで頭が覚醒しきっていない俺は、この暖かい家庭的な光景が現実なのかどうかはっきり分からずにただぼけっと突っ立っていた。

夢…夢かな。起きたら誰かがいるなんて。

夢…か。そう言えば、さっきまですごく優しい夢を見ていた気がする…。一晩中誰かに抱き締められて、緩く頭を撫でられているような、とても壊れやすい大切なものを扱うかのように優しい力で包まれていたような、そんな夢。

「…しゅり」

「ん?」

「こっちきて」

「…どうしたの」

俺が舌足らずに呼ぶと、彼は大人しく俺に近づいてきた。彼が歩く度、木製の古い床がきしきしと微かな音を立てる。窓から差し込んだ黄色い光が舞い上がった埃をきらきらと光らせて、この錆びた台所の風景すら映画のワンシーンのようだ。

「もっと」

「…ん」

至近距離に近づいた真っ白な頬にそっと両手を添え、感触を確かめるようにするりと撫でる。俺の予期せぬ行動に驚いたらしい柊凛は一瞬ぴくりと肩を跳ねさせたが、大人しく俺のしたいようにさせてくれた。

「…ほんものだ」

「本物だよ」

「まだ夢見てるのかな」

「夢じゃないよ」

「しゅりなの?」

「うん。おはようひなた」

「…おは、よう。ひゃぁっ?!」

「ふふふっ。起きた?」

俺がぼうっとしたままでいると、突然反撃のように真っ白な両手が頬に当てられて驚いてしまった。さっきまで洗い物をしていたのか俺の頬を包み込む彼の手はとても冷たく少し濡れていて、夢うつつだった俺の意識も漸く覚醒した。

「そうだ柊凛、朝ごはん作ってくれたの?」

「うん。だから早く顔洗っておいで」



「う、ぉおお!すごい!何これ!」

言われた通り顔を洗って食卓に付くと、そこにはいかにも日本の朝ごはんの見本のような光景が広がっていた。

焼いた鮭に大根おろし、ちょこんと鰹節が乗った艶やかな豆腐にワカメの味噌汁、それにほかほかの白いご飯…。あ、ネギが入った卵焼きもある!

俺の好物…。すごい、こんな豪華な朝ごはん久しぶりに見た。

ばあちゃんがいなくなってからというもの、安いし簡単だという理由で朝は大概パックで売られている納豆とご飯ぐらいだったからなぁ。何だか旅館の朝ごはんみたいだ。

「気に入ってくれた?」

「気に入るも何も!すごすぎるよお前、毎朝こんなしっかり作ってんの?」

「ははっ、そんなわけないよ。一人だと適当になっちゃって。でも今日は、陽多がいるから」

「本当にすごい…あのさ、ネギの入った卵焼き、俺すごい好きなんだ。ばあちゃんがよく作ってくれたんだ」

「うん」

「本当美味しそう…折角作ってくれたんだし、冷めないうちに食べよう!」

「そうだね」

「いただきます!…何これうまっ!」

「良かった」

柊凛は本当に何でも出来ちゃうんだなぁ。いつも寝起きはそんなにたくさん食べられないんだけど、これなら胃に重くもないし栄養もしっかり考えられていて全部平らげてしまえそうだ。
正面に座る彼は、パクパクと頬張る俺をまるで小動物でも愛でるような眼差しで見つめている。いつもならこんな風にじっと見られていると少し照れるところだが、俺は飯が美味すぎてそれどころじゃなかった。

「味噌汁もすっげー美味い!市販のやつと何か違う…」

「そうかな。熱くない?」

「うん。丁度良い感じ」

「良かった。陽多は猫舌だから熱すぎないようにしたんだけど、一応気を付けてね」

「マジか。ありがと………う?」

おおーそこまで気を使ってくれるとは。でも待てよ。俺が猫舌って何で知ってんだろ。言ったことあったかな?

ま、いいか。

それから柊凛はちょくちょく俺の家に泊まりに来るようになった。

二週間に一回から週に一回…と段々その頻度は増していき、今では週の半分は俺の家で過ごすのが当たり前になっていた。

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